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1. 任意整理後に一括返済は可能?
結論から言うと、任意整理後に残りの債務を一括で返済することは、原則として可能です。債権者にとって早期に貸金を回収することは不利益ではないからです。
ただし、一括で返済したからといって返済総額が変わるわけではないので、債務者側(お金を借りた側)の金銭的なメリットは限定的です。
一方で、一括返済後に再び借金をして自己破産をすることになった場合、一括で返済したという事実が問題になることがあります。一部の債権者に対してのみ借金を含む債務を返済した場合、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれる行為にあたり、免責が認められなくなるおそれがあります。
2. 一括返済の手順
一括返済の手順は、弁護士や司法書士などの専門家が手続きに関与しているかどうかで異なります。
債務者本人が一括返済を実施する場合には、債権者である消費者金融などに連絡し、一括返済の希望を伝えます。そして、未払いの債権の正確な残高を確認し、指定された振込口座に期日までに全額を返済します。
弁護士などの専門家に弁済手続きを一任している場合には、まずはその代理人に対して一括返済を希望する旨を伝えます。一括返済をすることが決まれば、弁護士などの代理人が残高確認や返済期日の調整などを行います。
なお、弁護士などが代理人となっている場合、債務者本人が債権者に連絡して一括返済を約束したり直接入金したりすることは、後々のトラブルの原因になり得るため避けるべきです。
3. 任意整理後に一括返済するメリット
任意整理後の一括返済には、次のようなメリットがあります。ただし、経済的な意味でのメリットが必ずしも大きくはない点は認識しておくべきでしょう。
3-1. 早くに借金の返済から解放される
任意整理後に一括返済を行うメリットとしては、借金の返済に伴う精神的な負担から早期に解放される点が挙げられます。
借金の返済を行っている間は、どうしても借金の返済が頭から離れず精神面で負担となることが多いです。一括返済をすることで借金のストレスから解放され、新たな生活をスタートできます。借金が返済できれば、毎月の家計の負担も軽減されます。
3-2. ブラックリストへの登録期間が短縮される可能性がある
借金を滞納したり、債務整理を行ったりすると、その事実が個人信用情報機関に登録されてしまいます。個人信用情報機関にこれらのネガティブな情報が登録されることを俗に「ブラックリストに載る」などと言います。
信用情報を記録している個人信用情報機関には、下表の3つがあります。
個人信用情報機関の名称 | 主な加盟事業者 |
|---|---|
銀行、信用金庫、信用組合、農協 | |
消費者金融などの貸金業者 | |
カード会社 |
ブラックリストに載ってしまうと、一定の期間、ローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることができなくなります。個人信用情報機関における任意整理に関する情報の登録期間は「完済から5年間」とされるケースが多いです。
そのため、完済した時期が早まるほど、ブラックリストから情報が削除されるタイミングも早くなる可能性があります。もっとも、一括返済を行えばブラックリストからただちに情報が削除されるわけではない点には注意が必要です。
自身がブラックリストに登録されているか、自身の信用情報がどのような状態にあるかについては、それぞれの個人信用情報機関に対して開示請求を行うことで確認できます。信用情報に関する自身の状況が気になる場合は、定期的に信用情報の開示請求を行うことをお勧めします。
信用情報の開示請求は、インターネット、または郵送によって行えます。詳細は各個人信用情報機関の公式ホームページで確認できます。
3-3. 返済額を減額できる?
従来、任意整理を行う場合、債権者との合意後の利息はカットされるのが一般的でした。そのため、任意整理後に一括返済を行ったとしても、利息の支払い義務を免れることにはならず、返済額は減額できないのが通常でした。
一方、最近では利息の免除が認められないなどの理由で任意整理後も利息の一部が残ったり、和解後の返済にも利息がついたりする事例があります。そのような場合には、一括返済によって、将来的に発生するはずであった利息分の支払いを回避できる可能性があります。
ただし、返済額を減額できるケースはかなり限定的であり、仮に減額できたとしてもその金額は小さいと言えます。
4. 任意整理後に一括返済するデメリット
一括返済にはメリットがある一方で、デメリットや将来の法的なリスクも存在します。一括返済を行う場合には、以下の内容を十分に理解しておく必要があります。
4-1. 返済総額は原則として変わらない
任意整理では、合意後に発生するはずの利息がカットされるケースも多いです。そのため、任意整理後に一括返済を行ったとしても「利息の支払いを免れる」というメリットは基本的にありません。
将来の利息が免除されている場合、残元金を分割で支払うか、一括で支払うかの違いしかないため、原則的には、返済総額は変わらないと考えるべきです。将来の利息が減額されている場合も含め、一括返済をする代わりに利息の減額交渉をしたとしても、応じてもらえる可能性は非常に低いでしょう。
「任意整理後に一括返済を行えば、返済額を減額することができる」というのは誤った認識です。
4-2. ブラックリストがただちに解除されるわけではない
一括返済を行ったとしても、信用情報機関から任意整理に関する事故情報がただちに削除されるわけではありません。一括返済日から約5年間は、ブラックリストへの登録が継続されるのが一般的です。「任意整理後に一括返済を行えば、すぐにブラックリストの登録が解除される」というのは誤解と言えます。
4-3. 一括返済後に生活が苦しくなっても取り戻せない
一括返済を行うと、仮にその後に病気や失業など予期せぬ事態が生じた場合であっても、支払った資金を取り戻すことはできません。家計に余裕がないなかで一括返済を行うと、その後の生活に困窮してしまう可能性があります。
借金はゼロでもブラックリストに登録されたままで信用情報が回復していないため、新たな借り入れも困難な状況である点はあらかじめ認識しておくべきでしょう。
4-4. 将来破産した場合に「偏頗弁済」とみなされてしまうリスクも
一括返済を実施したあとに、何らかの経済的事情により自己破産せざるを得ない状況もあるかもしれません。その場合、一括返済がいわゆる「偏頗弁済」にあたるとみなされる可能性があります。
「偏頗弁済」とは、一部の債権者に対してのみ優先的に弁済を行うことで、債権者間の公平さを乱す行為を指します。破産手続きにおいては債権者間の公平性などを図ることが重要であり、一部の債権者を優遇することは原則的に許されません。
一括返済が偏頗弁済だと判断された場合、一括返済の効力が失われるリスクや、破産したとしても借金が免除されないリスクがあります。
そのため、特定の債権者だけに一括返済を行う場合には、特に慎重に検討しなければなりません。
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5. 一括返済を行う際の注意点
任意整理後に一括返済を行う際は、次の3点に特に注意を払う必要があります。
5-1. 一部の債権者への一括返済は偏頗弁済になる
複数の債権者のうち一部の債権者にのみ一括返済を行うと、将来破産した場合に偏頗弁済とみなされ、支払い義務の免除が許可されないおそれがあります。すべての債権者に一律に一括返済を行う場合にはこのようなリスクはないため、一部の債権者にのみ一括返済を行うことは避けるべきです。
5-2. 一括返済の約束は取り消せない
任意整理を行うと、お金を借りた側である債務者は、定められた期限までに分割して返済を行えばよく、それまでは一括返済を求められることはありません。これを「期限の利益」と言います。
しかし、「いつまでに一括返済する」という約束をした場合、その時点で分割返済の期限の利益は失われてしまいます。そのため、万が一、約束した期限までに一括返済ができなかった場合には、残金全額をただちに支払うよう求められてしまうリスクがあります。
一括返済にかかる資金の確保ができる前に、安易に一括返済の約束を交わすことは避けましょう。
5-3. 弁護士などの専門家に相談する
一括返済には、偏頗弁済のリスクなど考慮すべき内容が少なくありません。そのため、一括返済を行う際には、自身の判断で対応するのではなく、任意整理の経験に長けている弁護士や司法書士の手を借りるのが望ましいと言えます。専門家に相談することで、リスクを最小限に抑え、最も安全な方法を選択することができます。
6. 任意整理後に一括返済を決める前のチェックリスト
一括返済を行うかどうかを判断するに際しては、以下のチェックリストを参考にしてください。
6-1. 当面の生活費が別に確保できる
疾病や失業などの不測の事態に備えるための当面の生活費を「生活防衛資金」と言います。生活防衛資金の目安は、3カ月から6カ月分の生活費です。任意整理後に一括返済を行う場合、一括返済に充てる資金とは別に、生活防衛資金が十分に確保されているかを確認しましょう。
6-2. すべての債権者に同時に完済できる資金がある
一括返済が偏頗弁済とみなされるリスクを回避するため、任意整理の対象としたすべての債権者に対して、同時期に完済できる資金があるかを確認してください。
6-3. ほかの借り入れや延滞が残っていない
任意整理の対象外となっている住宅ローンや奨学金を含む別の借り入れや、その他の支払いの延滞が残っていないかを確認することが大切です。ほかにも借金がある場合、一括返済により生活が苦しくなるリスクや、偏頗弁済にあたり自己破産ができなくなるリスクがあります。
6-4. 今後の収入見通しが立てられている
一括返済を行うことにより、一時的に大きな支出が発生します。そのため、当面の生活が破綻しないように留意すべきです。具体的には、その後1年間程度にわたり、転職、収入の減少、または大規模な支出の予定がないかを確認しましょう。
6-5. 専門家と書面手続きの段取りの相談ができている
任意整理を行った弁護士などの代理人と連携をとり、借金の残額や一括返済の資金が確保できているかを精査してください。弁護士などの助けのもと、一括返済の段取りや入金期日を確認しておくことも大切です。
7. 一括返済完了後の対応
一括返済を完了した場合、以下の手続きをとることをお勧めします。
7-1. 完済証明書の取得
一括返済を行った債権者から「完済証明書」、またはそれに相当する書類を取得することをお勧めします。借金を含む債務が消滅したことの証明書となります。
7-2. 信用情報の開示
一括返済から数カ月経過したら、個人信用情報機関に情報開示請求を行い、任意整理に関する情報が「完済」として正しく登録されているかを確認するとよいでしょう。
7-3. 誤登録に対する訂正請求
個人信用情報機関の情報が「返済中」のままであるなど誤った登録が確認された場合は、弁護士などの専門家を通じて債権者または信用情報機関に訂正請求を行ってください。
8. 一括返済に関する禁止行為(NG行動)
以下の行動は、手続きの失敗や将来的な法的リスクに直結するため、避けるべきです。
8-1. 代理人を通さずに債権者に直接入金する
代理人を通さずに債権者に直接返済をすることはやめましょう。借金などの債務の残高の確認が不正確であったり、債権者との書面による合意ができていなかったりすることで、一括返済後に債権者とトラブルになるリスクがあります。
8-2. 一部の債権者のみを先行して返済する
一部の債権者のみに対して先行して返済してはいけません。一部の債権者のみに返済すると、将来自己破産に移行した場合に偏頗弁済と認定され、自己破産が認められない可能性が高まります。
8-3. 他社からの借入金で一括返済を行う
借入金につき、ほかの金融機関などからの借入金により一括返済を行うことは控えるべきです。根本的な解決に至らないどころか、利息の負担が増えることで、結果的に返済すべき金額が増加する可能性もあります。
8-4. 返済資金のめどが立っていないのに一括返済の約束をする
一括返済を行うための資金のめどが立っていない状況で、一括返済の約束をすることも避けてください。期限までに資金を準備できなかった場合、期限の利益が喪失し、残額全額について即時に一括して返済するよう請求を受けるおそれがあります。
8-5. 領収書や完済証明書を取得しない
一括返済後に領収書や完済証明書を取得しないと、債務が消滅したことの証明が困難となり、将来的なトラブルの原因となり得ます。
9. 返済期間を短縮したい場合
任意整理後に一括返済を行ったとしても、返済額が減少することはまれです。一方、無理に一括返済を行うことによって当面の生活費が失われ、病気や失業などの不測の事態に対応することができなくなるおそれがあります。
一括返済をしても生活に支障をきたさない程度の十分な資金がない場合には、無理に一括返済をすべきではありません。もっとも、そのような場合であっても、信用情報が回復する期間を短縮したい場合もあるかと思います。
そうした状況では、金融機関などと交渉し、月額の返済額を増額させたり、ボーナス月の返済額を増額させたりするといった方法があります。これによって手元の資金を維持しつつ、返済の期間を短縮することが可能となります。
10. 任意整理後の一括返済に関して迷ったら専門家へ相談を
任意整理後の一括返済には、偏頗弁済などのリスクがあります。そのため、判断に迷う場合には、必ず弁護士や司法書士などの専門家に相談ください。
弁護士は、すべての債務整理に対応可能であり、複雑なケースへの対応や偏頗弁済のリスクの検討などを一任できます。債務整理について悩みがあれば、まずは弁護士の無料相談などを活用するのがよいでしょう。
司法書士については、債権者1社あたりの債務額が140万円までと取り扱える任意整理に限定がありますが、その範囲内であれば任意整理の交渉などの対応が可能です。手続きに要する費用は、弁護士と比較して安くなる傾向があります。
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11. 任意整理後の一括返済についてよくある質問
Q. 任意整理の返済を早めることはできる?
一括返済や繰り上げ返済を行うことで任意整理の返済期間を短縮することは自由にできます。ただし、一部の債権者にのみ返済した場合には、将来、自己破産したい場合に偏頗弁済と判断されたり、当面の生活費が失われてしまい、疾病や失業などの不測の事態に対応できなくなったりするなどのリスクがあります。
Q. 一括返済するとすぐにブラックリストへの登録は解除される?
一般に、任意整理の場合、ブラックリストの登録からの解除は「完済から5年後」とされています。そのため、一括返済をしても、ただちにブラックリストへの登録が解除されるわけではありません。
ただし、一括返済を行えば、ブラックリストへの登録が解除されるまでの期間が短縮される可能性はあります。
Q. 一括返済すると返済額を減額できる?
任意整理では、すでに合意後に発生する利息がカットされているケースがあります。その場合、任意整理後に一括返済を行ったとしても、利息の支払いを免れる余地はなく、返済額が減額されることはほとんどありません。
一括返済に際して、返済額を減額してもらえるよう交渉すること自体は自由ですが、基本的には、返済額については変動しないものと考えるべきです。
Q. 任意整理で支払いが遅れたら一括請求される?
任意整理後に約束の期限どおりに返済ができなかった場合、期限の利益を喪失してしまい、残額を一括請求される可能性があります。そのため、一括返済を行うための資金のめどが立っていない状況で一括返済の約束をすることは避けるべきです。
Q. 任意整理後の一括返済以外に返済期間を短縮するための安全な選択肢は?
金融機関と交渉し、月額の返済額を増額させたり、ボーナス月の返済額を増額させたりするなどの方法があります。これにより、手元の生活資金を維持しつつ、安全に返済の期間を短縮することが可能となります。
12. まとめ 任意整理後の一括返済は弁護士などの専門家に相談するのが望ましい
任意整理後の一括返済は、債務者にとって借金から早期に解放されるという精神的なメリットがありますが、返済総額は減額されないケースが多いなど、金銭的なメリットは限定的と言えます。
一方で、その後に自己破産する場合に偏頗弁済とみなされるリスクや、当面の生活資金が不足してしまうリスクなどがあります。弁護士などの代理人を介さずに一括返済に対応すると、借金などの債務の残高の確認が不正確だったり、銀行や消費者金融などとの書面による合意ができていなかったりすることで、一括返済後に債権者とトラブルになるおそれもあります。
一括返済を検討中の場合は、本記事の「任意整理後に一括返済を決める前のチェックリスト」を用いて、条件を満たしているかを確認することが有効です。一つでもチェックがつかないのであれば、一括返済が最良の選択とは言えないかもしれません。
デメリットやNG行為が少なくない任意整理後の一括返済については、慎重な検討が必要です。判断に迷う場合などには、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)
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