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1. 差し押さえで家族の私物が差し押さえられることはない
差し押さえとは、債務者が支払いを怠った場合に、債権者(お金を貸した側など)が裁判所を通じて、債務者(お金を借りたなどで支払い義務のある人)の財産を処分できないようにし、そこから未払い金を回収する法的手続きです。ただし、勝手に財産を処分できるわけではなく、事前に裁判所から「債務名義」を取得し、強制執行の申し立てを行う必要があります。
差し押さえの対象は、あくまで債務者本人が所有している財産に限られます。家族と同居している場合でも、名義が家族のものであれば原則として差し押さえの対象にはなりません。たとえば、妻名義の口座や、子どものゲーム機などは、基本的に対象外です。
ただし、名義が家族であっても、実際には債務者が主に使っている物と判断されると、誤って差し押さえられてしまうケースもあります。たとえば、家族で共有しているテレビやソファ、あるいは生活費を管理している妻の通帳などが、「債務者本人の所有物」と見なされてしまうこともあります。
もし誤って差し押さえられてしまった場合でも、所有権を証明できれば財産を取り戻すことは可能です。購入時のレシートやクレジットカードの明細、保証書などが所有者を示す資料として役立ちます。
差し押さえの対象となるのは、以下のような債務者本人名義の財産です。
給与や退職金
不動産
株式や証券
自動車
生命保険の解約返戻金
一方で、法律によって差し押さえが禁止されている財産もあります。そのため、たとえ債務者本人のものであっても、すべての財産が対象になるわけではありません。
2. 差し押さえ対象ではない財産の例
差し押さえは、債務者本人の財産に対してのみ行われます。しかし、生活を維持するために欠かせないものや、法的に保護されている財産については、たとえ本人所有であっても差し押さえが禁止されています。ここでは、差し押さえの対象外とされる代表的な財産について、3つのカテゴリーに分けて解説します。
2-1. 家族の私物
差し押さえの対象は、あくまでも債務者本人が所有する財産に限られます。同居している家族の名義である物品は、原則として差し押さえることができません。
ただし、家族名義であっても債務者本人が日常的に使っていた物品などは、本人の所有物と誤解される可能性があります。とくに、次のような物は注意が必要です。
共用の家具(テレビ、ソファ、ダイニングテーブルなど)
パソコン、ゲーム機、スマートフォンなどの電化製品
銀行口座(名義が妻や子どもであっても、債務者が管理していると疑われやすい)
万が一、家族の私物が誤って差し押さえられてしまった場合でも、所有権を証明できれば取り戻すことができます。レシートや保証書、クレジットカードの明細など「誰が購入したか」を示す書類は、いざというときの証拠になります。
2-2. 差押禁止動産
債務者本人の所有物であっても、生活に欠かせない物は差し押さえることができません。これらは「差押禁止動産」として、民事執行法で保護されています。
代表的な差押禁止動産は以下のとおりです。
日常生活に必要な衣類や寝具(服、布団、タンスなど)
家電(冷蔵庫、洗濯機、炊飯器など生活に欠かせないもの)
食料や燃料(おおよそ4週間分を想定)
台所用品・最低限の食器
自転車やバイク(通勤・通学で必要と認められる範囲)
職業に必要な道具(大工の工具、美容師のハサミ、農業機械など)
パソコン(フリーランスなど職業上必要な場合)
現金(生活に必要な現金として上限66万円まで)
補装具(義手・義足・車いすなど身体の機能補助に必要な器具)
仏壇・位牌などの礼拝用具(高額な美術品に該当する場合は除く)
教科書や仕事に必要な書籍・学用品(文房具、参考書など)
生活の維持に不可欠なものは、原則として強制的に持ち出されることはありません。
2-3. 差押禁止債権
「債権」とは、誰かにお金を支払ってもらう権利などを指します。そのなかでも、生活の根幹に関わる債権については、差し押さえが制限または禁止されています。これを「差押禁止債権」といいます。
代表的なものは以下のとおりです。
給与・賃金の一部(※1)
年金(厚生年金・国民年金などの公的年金)
生活保護費
労災保険の給付
児童手当・扶養手当
養育費・扶養料
退職金(※2)
※1……手取り額が44万円以下の場合、4分の1を超える差し押さえは不可、44万円を超える場合、33万円を超えた部分は差し押さえ可能
※2……受け取る前の段階では、4分の3が差押禁止。ただし、受け取った後の現金は通常財産として差し押さえ対象
これらの債権は、債務者の最低限の生活を守るために保護されているものであり、法律上も特別な扱いが定められています。
3. 差し押さえに関する通知がきたときの対処法
差し押さえの手続きは、ある日突然始まるものではありません。まずは債権者から支払いを促す通知が届き、それでも支払いがなければ、裁判手続きに移行していきます。
通知の段階で適切に対応できれば、差し押さえを防げる可能性もあります。ここでは、通知が届いたときに確認すべきポイントや、具体的な対応方法について解説します。
3-1. 裁判所から届いた通知か確認する
通知が届いたら、まずは差出人が誰かを確認しましょう。債権者からの書面なのか、あるいは裁判所からの正式な通知なのかによって、対応が異なります。
裁判所からの通知であれば、封筒に「特別送達」と書かれていることが多く、内容も正式な裁判文書です。これに対して、債権者からの通知はあくまで「支払いがなければ裁判を起こす」という警告にすぎません。この段階で誠実に対応すれば、裁判に発展せずに済む可能性もあります。
3-2. 通知がきたらすぐに弁護士に相談する
通知が裁判所からのものであれ、債権者からのものであれ、内容を放置するのは非常に危険です。対応が遅れることで、強制執行に発展するリスクも高まります。
書面に書かれている法律用語の意味がわからなかったり、自分に不利な内容だと感じた場合には、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。状況に応じた対処法をアドバイスしてもらえます。
3-3. 支払督促は2週間以内に異議申し立てをする
「支払督促」は、裁判所を通じて債権者が債務者に支払いを求める簡易な手続きです。債務者がこれに異議を申し立てなければ、書面だけで差し押さえに進むことが可能になります。
重要なのは、支払督促が届いた日から2週間以内に異議を申し立てることです。期限を過ぎると、債権者が「仮執行宣言」を申し立て、差し押さえが実行される可能性があります。
異議を出せば、通常の訴訟手続きに移行します。その中で分割返済の交渉や和解ができる場合もあるため、早めに弁護士に相談して方針を決めることが大切です。
3-4. 訴状の場合、口頭弁論期日の1週間前までに答弁書を提出
裁判が始まると「訴状」が届きます。この訴状には「口頭弁論期日(裁判の日)」が記載されており、その1週間前までに「答弁書」を提出する必要があります。
もし何も提出しないまま裁判当日を迎えると、債権者の主張がそのまま認められてしまう恐れがあります。反論がある場合は、必ず期限内に書面で意思を示すようにしましょう。
答弁書を通じて、自分の考えや返済の意思を明らかにすることで、和解の道が開ける場合もあります。放置せず、弁護士の力を借りて準備することが、差し押さえを防ぐ第一歩になります。
4. 差し押さえを回避する方法
裁判手続きや差し押さえは、通常はいきなり実行されるものではありません。支払いの督促や通知が届いた時点で対応すれば、差し押さえを回避できる余地もあります。ここでは、差し押さえを未然に防ぐためにとれる方法をご紹介します。
4-1. 債権者に相談する
滞納してしまっても、支払う意思を示し、現実的な返済計画を提示すれば、分割払いなどに応じてもらえる可能性があります。債権者としても、裁判や差し押さえには時間や費用がかかるため、話し合いで解決できるなら、それを選ぶことも珍しくありません。
ただし、差し押さえの手続きがすでに進んでいる段階では、交渉が難しくなる場合があります。通知が届いた時点で、できるだけ早く行動を起こすことが大切です。
4-2. 債務整理を検討する
支払いのめどが立たない場合は、債務整理という法的手段を活用して差し押さえを防ぐ方法もあります。任意整理や自己破産などの手続きを取れば、債権者からの請求を一時的に止めることができるため、裁判や強制執行を回避できる可能性があります。
弁護士に相談すれば、収入や債務の状況に応じて、どの方法が適しているかをアドバイスしてもらえます。早めに専門家の支援を受けることが、最善の対応につながります。
5. 差し押さえを回避するためにやってはいけないこと
差し押さえを避けたいという気持ちは自然なことですが、間違った方法で回避しようとすると、かえって不利な状況を招くおそれがあります。ここでは、絶対に避けるべき対応について説明します。
5-1. 財産を隠す・名義を変える
差し押さえを逃れるために財産を隠したり、他人の名義に変更したりする行為は法的に重大な問題となります。これらの行為は「強制執行妨害」として、損害賠償の対象となるだけでなく、刑事罰を受ける可能性もあります。
また、後に自己破産を申請したとしても、財産を隠していた事実があると、免責が認められない可能性が高くなります。結果的に借金が帳消しにならず、生活再建が困難になることも考えられます。
名義変更などの隠ぺい行為は、問題を解決するどころか悪化させるだけです。絶対にやめましょう。
5-2. 債権者や裁判所からの通知を無視する
届いた通知を放置するのは非常に危険です。債権者や裁判所からの書類には、法的な意味を持つものも含まれており、対応を怠るとそのまま差し押さえに進んでしまう可能性があります。
「知らなかった」「怖くて開けられなかった」といった理由では、手続きの進行を止められません。不安を感じたときこそ、専門家に相談することが大切です。
5-3. うその申告や虚偽の説明をする
裁判や交渉の場面で、事実と異なる内容を申告することは大きなリスクを伴います。信用を失い、裁判で不利な判断をされる可能性も高まります。
不利に思える内容であっても、正直に話すことが最善の解決につながる第一歩です。事実に基づいた対応が、結果としてあなたを守ることになります。
6. 差し押さえを受けそうなときに弁護士に相談するメリット
差し押さえのリスクがあるときは、早めに弁護士へ相談することが重要です。債権者との交渉や訴訟への対応を代理してもらえるだけでなく、差し押さえを回避するための具体的な方法もアドバイスしてくれます。
所有財産が対象になるかどうかや、名義・資金の出どころによって発生するリスクも、法的観点から丁寧に判断してもらえます。対応策が明確になることで、精神的な負担が軽くなり、冷静に対処しやすくなるはずです。思い込みで動かず、専門家の助言を得て対応しましょう。
7. 家族の私物の差し押さえに関するよくある質問
Q. 差し押さえられた家族の私物はどうなる?
所有者が家族であることを証明できれば、差し押さえは取り消され返還されます。「第三者異議の申立て」を行い、所有権が認められた場合も差し押さえを防ぐことが可能です。
Q. 差し押さえは家族名義の家も対象?
原則として、債務者本人名義ではない財産は差し押さえの対象になりません。家族名義の自宅も、債務者のものとされない限り、差し押さえられることはありません。
Q. 実家暮らしで親と同居している場合に持っていかれるものとは?
同居している家族の物であっても、債務者本人が主に使用しているとみなされた場合は、本人の所有物と判断されることがあります。債務者以外の家族の所有であることを証明できる書類があれば、差し押さえを防ぎやすくなります。
Q. 差し押さえの順番や優先順位は?
差し押さえでは、給与や預金など、現金化しやすい財産から優先して手続きされるのが一般的です。債権者が複数いる場合は、申し立ての順番が早い方が優先されます。
Q. 夫が差し押さえを受けるとき、妻が保証人なら、妻名義の私物はどうなる?
妻が保証人になっていたとしても、債務名義が夫に対してのみ出されている場合、妻名義の私物は差し押さえの対象にはなりません。ただし、妻にも別途債務名義がある場合は、差し押さえられる可能性があります。
Q. 差し押さえ時に本人不在の場合はどうなる? 勝手に持っていかれる? 家族と本人それぞれの私物をどう見分ける?
債務者が不在でも、差し押さえの執行は行われます。その場で家族の物と主張するには、所有者を証明する書類(購入時のレシートや保証書、クレジットカードの明細など)が有効です。債務者の物ではないと明確に示せれば、回収を防ぐことができます。
8. まとめ 差し押さえで家族の私物が奪われる心配は原則不要
差し押さえの対象となるのは、あくまで債務者本人の名義で所有している財産に限られます。家族の私物が差し押さえられることは基本的にありません。ただし、債務者が使用していたと誤認される可能性がある物については注意が必要です。
所有者を示すレシートや保証書などを手元に残しておくと、万一のときに役立ちます。差し押さえに関する通知が届いた場合は、慌てずに内容を確認し、早めに弁護士へ相談しましょう。正しい対応が、家族の財産を守るための第一歩です。
また、借金問題に悩んでいるのであれば、差し押さえを避けるためにも早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。相談するタイミングが早ければ早いほど、対応できる幅が広がります。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)
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