目 次
1. 個人再生は司法書士に依頼できる?
司法書士が受任できる業務には「裁判所や検察庁に提出する書類の作成(司法書士法第3条第4号)」があります。これは、簡易裁判所・地方裁判所・家庭裁判所といった裁判所の種類や、事件の内容・金額を問わず、書類作成であれば対応できることを意味します。
個人再生は地方裁判所に申し立てる手続きですから、その提出書類の作成は司法書士に依頼できます。ただし、この場合の書類提出者は申立人本人(債務者)であり、司法書士が代理人として手続きを行うことはできません。
したがって、裁判所から出頭を求められた際には、本人が対応しなければなりません。その点で、代理人として申し立てを行える弁護士とは異なります。
2. 個人再生における司法書士と弁護士の業務範囲の違い
司法書士は、裁判所に提出する書類の作成であれば、金額や裁判所の種類を問わず受任できます。代理人ではなく、書類作成を通じて本人をサポートする立場です。
代理人になれるのは「認定司法書士」に限られ、簡易裁判所で訴額140万円以下の訴訟や、任意整理で1社あたり140万円以下の債務について債権者と交渉する場合に限定されます。それ以外の事件では代理はできず、関与は書類作成にとどまります。
一方、弁護士は全ての裁判所・事件で代理人になれ、金額や内容に制限はありません。個人再生や自己破産の申し立てでは、本人が出頭すべき場合でも弁護士が代理で対応できることがあります。
ただし、裁判所によっては審尋(面談)が省略され、個人再生委員が選任されないまま進むケースもあります。この場合であれば、自分で対応することになっても比較的負担なく手続きを進められるケースも多いです。
2-1. 司法書士の業務範囲
司法書士が個人再生の申し立てを受任する場合は、書類作成業務という形になります。ただし「書類だけを作成して終わり」ではなく、提出や裁判所からの補正指示への対応、連絡や書類の受領などを通じて依頼者をサポートします。
ただし代理人として手続きを行うことはできず、あくまで本人の名前で行うことになります。また、裁判所から出頭を求められた場合には、司法書士の助言を受けながらも本人が対応しなければなりません(司法書士は同席不可)。
2-2. 弁護士の業務範囲
弁護士は、裁判所の種別や対象となる事件の額に関わらず、すべての手続きにおいて依頼者の代理人となることができます。したがって、裁判所とのやりとりや対応、出頭すべき場合の代理出頭も可能となります。
3. 個人再生を専門家に依頼した場合の費用相場の違い
個人再生では、弁護士や司法書士への報酬に加え、裁判所に納める実費が必要です。実費の目安は以下のとおりです。
収入印紙代:1万円
官報掲載費:約1万2,000円
郵便切手代:2,000〜4,000円程度
再生委員への予納金:15万〜25万円程度
実費は裁判所や債権者によって変わります。また、再生委員は必ず選任されるわけではなく、選任された場合でも代理人が弁護士かどうかなどにより、裁判所の判断で金額が変わります。
下記では、各専門家に依頼する際にかかる費用相場について説明します。
3-1. 司法書士に依頼した場合
司法書士に個人再生を依頼した場合「30万円から40万円程度」の費用がかかります。これはあくまでも相場であり、依頼する事務所の基準や手続きの複雑さによっては上記の金額を超えることもあります。
3-2. 弁護士に依頼した場合
弁護士費用の場合、「40万円から60万円」が相場です。司法書士と比べると、弁護士の方が対応できる業務範囲が広いため、費用もやや高めになっています。こちらもあくまで相場である点に留意しましょう。
4. 弁護士に個人再生を依頼した方がよいケース
司法書士も個人再生に関与できますが、状況によっては弁護士に依頼した方が安心です。代表的なケースを紹介します。
4-1. 1社でも140万円を超える借金がある場合
司法書士は個人再生の書類作成なら、1社あたり140万円を超える債務があっても受任可能です。ただし、任意整理へ切り替わった場合は司法書士では対応できません。借金額が大きく、任意整理の可能性もあるなら、最初から弁護士に依頼するのが無難です。
4-2. 裁判所とのやりとりをすべて代理してもらいたい場合
司法書士は書類の提出や補正の対応、裁判所からの送達の受け取りは可能です(裁判所の運用により関与できる程度は異なります)。しかし、裁判官や再生委員との面談に代理出席することはできません。その場では債務者本人が対応する必要があります。こうした負担を避けたい場合は、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
4-3. 自営業などで収入が不安定な場合
収入に波がある場合、家計の実態を正確に把握するのが難しく、手続きが複雑化することがあります。特に自営業者は、給与所得者のように毎月の収入が一定ではなく、季節や取引先の状況によって大きく変動するのが一般的です。
さらに、経費の支出も多岐にわたるため、正確な収支を整理し、裁判所に提出できる形に整える作業は手間がかかります。
また、収入が不安定な自営業者の場合、再生計画案の審査も厳しくなる傾向があります。そのため、裏付けとなる資料を十分にそろえ、裁判所に対して的確に説明できる体制が必要です。
こうした理由から、複雑な事案の経験が豊富な弁護士に依頼するのが望ましいケースが多いといえます。
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5. 司法書士に個人再生を依頼できるケース
上で説明したように、特に弁護士に依頼したほうがよい状況でなければ、司法書士に書類作成支援として、個人再生を依頼することを検討してもよいケースもあります。
基本的には、給与所得者のように収入が安定している、家計が複雑ではない、債権者との交渉などが不要であるなどのケースがあげられますが、ほかにも次のようなものがあります。
5-1. 費用を抑えたい
一般的に司法書士の報酬は弁護士より低めです。弁護士は、法的な代理人として裁判所や債権者との交渉・説明責任を全面的に負うためです。つまり、司法書士は、代理人として関与しない分、多くの事務所で弁護士の報酬よりも安い設定にしていることが多いため、費用が抑えられる傾向にあります。司法書士は書類作成支援にとどまるため、内容が複雑でなく、代理人の立場が重要でない場合は、司法書士に依頼することでコストを減らせる可能性があります。
5-2. 書類作成をサポートしてもらえば自分で裁判所に出すことができる
司法書士は代理人にはなれませんが、個人再生の申立書類の作成、提出、裁判所からの連絡や送達の受領、不備対応などは基本的に行うことができます(裁判所の運用により、対応できる範囲は異なります)。本人の出頭が不要な案件であれば、書類上の多くのやり取りを司法書士に任せられる場合もあります。無料相談などで司法書士の説明を聞き、代理人として専門家に介入してもらうことが必須でなさそうであれば、司法書士に書類作成として依頼するのも選択肢といえます。
5-3. 近隣に信頼できる司法書士事務所があり相談しやすい環境がある
司法書士事務所は地域に根ざしているケースも多く、比較的身近な場所で見つかることがあります。個人再生では複数回の打ち合わせや書類準備ややり取りが必要になるため、比較的通いやすい司法書士事務所が近くにあると進めやすいでしょう。
6. 司法書士に個人再生を依頼する流れ
司法書士に個人再生を依頼する場合、以下のような流れで手続きを進めます。
【①相談】
司法書士に債務状況や希望を相談します。
【②委任契約(正式依頼)】
依頼内容を確認し、契約を結びます。
【③債権調査】
司法書士が受任通知を送付し、各債権者から取引履歴を取り寄せ、債務総額を確定します。
【④申立書類の作成】
必要な書類を整えます。
【⑤裁判所への提出】
・司法書士が本人名義で書類を作成し、裁判所に提出します。
・裁判所が必要と判断すれば「個人再生委員」が選任され、財産・収入の確認や再生計画案作成の助言を行います。
・裁判所によっては「履行テスト」が行われ、分割返済が可能かを確認します。
【⑥再生手続開始決定】
裁判所が開始決定を出し、官報に掲載。2週間以内に異議がなければ確定します。
【⑦債権届出・異議申述】
債権者が債権額を届け出し、異議がある場合は申し立てます。
【⑧再生計画案の提出】
収入や生活状況をもとに、原則3年で分割返済する計画案を作成・提出します。
【⑨書面決議(小規模個人再生の場合)】
裁判所が債権者に再生計画案を送付し、過半数の同意を得ます。
【⑩認可決定】
裁判所が再生計画を認可し、官報に掲載。2週間後に確定します。
【⑪返済開始】
認可された再生計画に基づき、原則3年間の返済が始まります。
7. 個人再生を依頼する司法書士の選び方
個人再生を依頼する場合の司法書士の選び方について、ポイントを確認しておきましょう。
7-1. 債務整理の経験が豊富かどうか
債務整理は、実績を多く持つ事務所に依頼するほど手続きがスムーズに進みます。特に個人再生は、任意整理や自己破産に比べて裁判所とのやり取りが多く、専門的な判断や経験が必要となる手続きです。
そのため、これまでにどれくらいの件数を扱ってきたのかを確認することが大切です。ホームページや実績紹介をチェックし、無料相談を予約して実際に資格者と会い、対応の印象も確かめてみましょう。
7-2. 料金体系が明確かどうか
報酬の不透明さはトラブルの原因になりやすいため、相談時に必ず確認しておきましょう。総額でいくらかかるのか、分割払いが可能か、追加料金が発生する場合にはどんなケースなのかを明確にしておくことが重要です。事前に説明を受けておけば、予想外の請求に悩まされる心配も減ります。
7-3. 親身になって対応してくれるかどうか
個人再生は借金問題を解決するだけでなく、生活の立て直しを目的とした制度です。そのため、単に法律的な説明をするだけではなく、依頼者の生活状況や将来の見通しにもしっかり耳を傾けてくれるかどうかが大切です。
質問や不安に丁寧に答え、気持ちに寄り添ってくれる姿勢があるかどうかを見極めることが、信頼できる専門家を選ぶための重要なポイントとなります。
8. 債務整理を依頼する司法書士の探し方
債務整理を多く扱っている、または得意とする司法書士事務所を探す方法をいくつか紹介します。
【「地域名×債務整理×司法書士」で検索する】
債務整理を扱う事務所の多くはホームページを持っており、業務内容や報酬、事務所の雰囲気を確認できます。気になる事務所があれば、問い合わせて相談してみましょう。
【無料相談を活用する】
司法書士会や市区町村役場が主催する無料相談会では、実際に資格者に会って相談できます。ただし、その場での直接受任は禁止されていることも多く、後日あらためて依頼する形になります。対応が良かった司法書士がいれば、正式な依頼方法を確認しておくと安心です。
【「債務整理のとびら」を利用する】
士業検索ポータルサイト「債務整理のとびら」では、債務整理に強い司法書士事務所を効率的に探せます。地域や相談内容を絞って検索できるので、複数の事務所を比較する際に便利な方法といえるでしょう。
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9. 個人再生の司法書士に関するよくある質問
Q. 1社でも140万円以上の債権者がいる場合、個人再生を司法書士に依頼できない?
依頼できます。司法書士は代理人ではなく書類作成者として関与するため、債務額に制限はありません。ただし、個人再生から任意整理に切り替わる場合は注意が必要です。
Q. 司法書士に依頼した場合、裁判所の対応は自分で行うことになる?
書類の提出や補正対応、連絡の受領は司法書士が代行可能です。ただし裁判官や再生委員との面談など、裁判所への出頭は本人が対応しなければなりません。
Q. 司法書士に依頼した場合、個人再生の成功確率は下がる?
司法書士に依頼しても成功率が下がるわけではありません。ただし、複雑な案件や柔軟な交渉が必要な場合は、経験豊富な弁護士の方が進めやすいケースもあります。
Q. 個人再生でやってはいけないことは?
財産や収入を隠す、虚偽の申告をする、計画通りに返済しないといった行為は認められません。特に保証人がいる場合は、必ず事前に事情を説明しておかないとトラブルになります。
Q. 個人再生できないケースは?
債務総額が5,000万円を超える場合や、収入が不安定で返済計画の実現が困難な場合は制度を利用できません。生活状況から計画に無理がある場合も不認可となります。
Q. 債務整理を司法書士・弁護士に依頼する際の注意点
専門家に全てを任せることはできません。借金の経緯や収支の詳細は本人しか分からないため、正確に伝えられるよう準備することが重要です。
10. まとめ 司法書士には個人再生の書類作成などを依頼できる
個人再生は弁護士・司法書士どちらにも依頼できますが、代理権や裁判所対応など対応範囲には違いがあります。弁護士はすべてを代理できるため安心感がありますが、どちらかといえば費用は高めです。一方、司法書士は代理できる範囲が限られるものの、費用は安く抑えやすいのが特徴です。
どちらに依頼すべきか悩む場合は、無料相談などを利用して、弁護士と司法書士の両方に相談してみましょう。自分に向いているのはどちらか、より費用が安いのはどの事務所か、などの疑問が解決します。
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(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)
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