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1. 自己破産による職業制限(資格制限)とは?
自己破産は、裁判所を通じて借金などの債務を免除してもらう手続きです。高価な財産などは処分されますが、最終的に借金はゼロになります。自己破産には大きなメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。その一つが「職業制限(資格制限)」です。
自己破産に追い込まれるほど経済的に不安定な状態では、職務を行う際、横領などの不適切な行為をしてしまうことが懸念されます。もちろん、そのような人はごく一部に過ぎないでしょう。しかし、社会的信頼が求められる一部の職業については、破産手続きが終わるまで従事できないと定められています。
2. 自己破産するとできない仕事|職業制限一覧
自己破産すると一定の職業に就けなくなることがあります。主な制限対象は以下のとおりです。
2-1. 各種士業|弁護士・司法書士・税理士・公認会計士など
専門的な資格に基づいて職務を行っている人は「士業」と呼ばれています。たとえば以下に挙げる士業は、破産手続開始の決定がなされると「欠格事由」に該当し、復権するまではその仕事ができません。
弁護士
弁理士
公認会計士
税理士
司法書士
行政書士
土地家屋調査士
社会保険労務士
通関士
宅地建物取引士
2-2. 行政機関や公的機関の役員・委員など
以下の職業も、破産手続開始の決定によって罷免・解任・欠格などの事由に該当し、復権するまでは再就任できません。
・各種公的機関の役員(日本銀行、商工会、商工会議所など)
・各種公的委員会の委員長、委員(公正取引委員会、労働保険審査会、社会保険審査会、教育委員会など)
行政機関や公的機関の役員・委員などは、高い職業倫理に基づいた職務遂行が求められるためです。
2-3. 銀行や保険会社などの取締役・執行役・監査役
銀行や保険会社なども、破産手続開始の決定により欠格事由とされるため、その時点で退任となり、復権するまではその仕事ができません。
銀行の取締役、執行役、監査役
保険会社の取締役、執行役、監査役
信用協同組合または信用協同組合連合会の役員
商工組合中央金庫の取締役、執行役、監査役
農林中央金庫の役員
労働金庫または労働金庫連合会の役員、清算人
共済事業を行う消費生活協同組合または消費生活協同組合連合会の役員
貯金や定期積金の受入れ、組合員の共済に関する事業を行う漁業協同組合の役員
貯金や定期積金の受入れ、組合員の共済に関する事業を行う農業協同組合または農業協同組合連合会の役員
顧客から多額のお金を預かる事業者の役員は、高い職業倫理が求められるためです。
2-4. 貸金業者
貸金業者が自己破産し、破産手続開始の決定を受けた場合、裁判所から選任された破産管財人(財産の管理・処分などを行う人)は、その旨を金融庁長官または都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。この届出がなされると、貸金業の登録が失効し、営業できなくなります。
2-5. 警備員
警備員の業務は、警備業法により規制されています。同法では、破産手続開始の決定を受けた場合、復権しない限り警備業を営んではならないと定められています。
3. 会社役員が自己破産すると、一度退任となる|ただし再就任は可能
会社の役員(取締役や監査役など)は、会社と委任契約を結んでいます。
民法では、役員(受任者)が破産手続開始の決定を受けた場合、委任契約は終了すると定められており、破産手続開始の決定により役員は退任となります。
ただし、破産手続開始の決定後であっても新たに委任契約を結ぶことができ、復権を待たずに同じ会社や別の会社の役員に就任することも可能です。
4. ほとんどの職業は、自己破産をしても制限されない
自己破産によって職業制限の対象となるのは一部の職種のみで、ほとんどの職業は制限されません。たとえば以下のような職業は、自己破産をしてもこれまでどおり仕事を続けられます。
医師
看護師
介護士
保育士
会社員(事務職、営業職、企画職など)
公務員(行政機関や公的機関の役員や委員などを除く)
銀行員(取締役、執行役、監査役を除く)
5. 自己破産による職業制限の対象かどうかを確認する方法
その職業を規定する法律を確認することで、職業制限の対象かどうか分かることがあります。「e-Gov法令検索」で該当する法律を確認し、「破産」などのキーワードでページ内検索(Ctrl+F)を行うのが便利です。
たとえば、弁護士については「弁護士法」という法律を確認します。「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」が欠格事由とされているため、資格制限の対象であることが分かります(同法7条4号)。
一方、医師について定めた「医師法」には、破産に関する欠格事由はなく、自己破産による資格制限の対象ではないことが分かります。
ただし、自身で調べると見落とす可能性もあるため、弁護士に確認してもらうことをおすすめします。


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6. 自己破産による職業制限の期間は、いつからいつまで?
自己破産による職業制限が生じる期間は、「破産手続開始の決定」から「復権」までです。
6-1. 破産手続開始の決定がなされると、職業制限が始まる
裁判所が自己破産の申立てを受理し、法律上の要件を満たすと判断した場合、「破産手続開始の決定」が出されます。この決定が行われた時点から破産手続きが始まり、職業制限の効力も生じます。
6-2. 復権すると職業制限が解除される|免責許可決定の確定など
職業制限は、自己破産をする人が「復権」することで解除されます。復権が認められるのは、以下のいずれかの場合です。
免責許可の決定が確定したとき
破産債権者(お金を貸した側)全員の同意などにより、破産手続廃止が確定したとき
再生計画認可の決定が確定したとき(自己破産から個人再生へ切り替えた場合など)
詐欺破産罪に問われ有罪の確定判決を受けることなく10年が経過したとき
破産債権者に対する債務の全部について責任を免れたことによる、裁判所の復権の決定が確定したとき
多くの場合は、免責許可決定の確定によって復権し、職業制限が解除されます。
6-3. 職業制限の期間の長さはどれくらい?
破産手続開始の決定から復権までの期間は、事案によって異なるので一概に言えません。自己破産には同時廃止事件と管財事件の2種類があり、手続きによっても期間が異なります。
【同時廃止事件】
財産が少なく、債務の状況が比較的シンプルな場合の手続きです。2カ月から3カ月程度で職業制限が解除されることが多いです。
【管財事件】
破産管財人が選任され、財産の処分などが行われる場合の手続きで、処理が長引く傾向にあります。処理がスムーズに進めば4カ月程度、破産管財人の業務が難航していれば1年以上かかることもあります。
7. 自己破産をしたら、制限される職業はすぐに辞めなければいけない?
破産手続開始の決定が出た時点で、職業制限の効果が生じます。制限対象の職業に就いている場合は、すぐに業務を停止しなければなりません。職業の種類や立場に応じた取り扱いは、おおむね以下のとおりです。
7-1. 資格職の場合|登録先への届出が必要
弁護士や税理士など士業の資格職は、登録している機関や組織に対し、破産手続開始の決定を受けた旨を届け出る必要があります。届出後は、登録抹消などの措置が行われます。
7-2. 会社員などの労働者の場合|解雇されるかどうかはケース・バイ・ケース
会社などに雇用されている労働者の場合、職業制限による解雇を受けるかどうかは状況によって異なります。
制限対象の職業に限定して雇用されている場合(例:法務部専任として雇用された弁護士など)は、配置転換(部署や職務内容などの変更)の余地がないと判断され、解雇されてしまうかもしれません。これに対して、別の部署への配置転換が可能な場合は、解雇は認められない可能性が高いと考えられます。
7-3. 業務委託の場合|契約を解除される可能性が高い
フリーランスなど業務委託契約で働く場合、企業内での配置転換が想定されていません。職業制限で業務ができなくなると、契約を解除される可能性が高いです。
8. 自己破産したことを職場に伝える必要はある?
現在の仕事が職業制限の対象でない場合、自己破産したことを職場に伝える必要はありません。
一方、職業制限の対象となる場合は、速やかに報告が必要です。職場に黙ったまま今の仕事を続けると、法令違反の状態となるほか、懲戒処分の対象になるおそれがあるため、注意が必要です。
9. 自己破産によって制限された職業に、また就職することはできる
自己破産による職業制限は、免責許可決定の確定などによって復権した時点で解除されます。
復権すれば、制限されていた職業にも再び就くことが可能です。以前の仕事に戻りたいと考えている場合は、復権を待ちましょう。
10. 職業制限を受けずに借金問題を解決する方法
職業制限を避けたい場合、「任意整理」や「個人再生」といった別の債務整理手続きがあります。どの手続きが適しているかは、弁護士や司法書士に相談して判断するとよいでしょう。
10-1. 任意整理
任意整理は、銀行や消費者金融、クレジットカード会社などの債権者と話し合いを行い、借金などの債務の負担を軽くする手続きです。同意が得られれば、今後発生する利息や遅延損害金(支払いが遅れた際に発生するペナルティ)のカット、返済スケジュールの見直しなどが可能です。
任意整理には職業制限が発生せず、財産も処分されないなどのメリットがあります。裁判所を通さずに行うため、手続きがシンプルで短期間で済みます。ただし、元本の減額は認められにくいため、多額の借金がある場合には不向きです。
10-2. 個人再生
個人再生は、裁判所を通じて債務を減額する手続きです。債権者の合意や裁判所の認可を受けた返済計画に基づき、最大10分の1まで減額されます。
個人再生でも職業制限は発生せず、持ち家の抵当権などの担保権が付いているものを除いて財産は処分されません。「住宅ローン特則」を利用すれば、住宅ローンが残っている自宅を処分されずに手続きを進められます。ただし安定した収入があることが条件で、最低でも100万円の返済が必要です。
11. 自己破産の職業制限が心配なとき、弁護士や司法書士に相談するメリット
職業制限に不安がある場合は、弁護士や司法書士に相談しましょう。任意整理や個人再生といった他の債務整理の手段も含め、自分の職業や状況に合った解決策を提案してもらえます。
弁護士は、債務整理各種の手続きに一貫して対応できます。一方で、司法書士は、1社当たり140万円以下の任意整理や、個人再生・自己破産で裁判所に提出する書類の作成に対応可能です。「債務整理のとびら」を利用すれば、地域や条件検索で弁護士・司法書士が探せます。無料相談を受け付けていることも多いため、気軽に相談してみましょう。


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12. 自己破産の職業制限に関してよくある質問
Q. 自己破産の職業制限は、なぜ設けられている?
自己破産に追い込まれるほど経済的に不安定な状態では、横領など職業倫理上不適切な行為をするリスクが高まると考えられています。そのため、高い倫理観が求められる職業には制限が設けられています。
Q. 破産手続き中でも、制限される職業の資格試験は受験できる?
破産手続き中でも、士業などの資格試験を受験できます。ただし、制限対象の資格については、復権しなければ登録や業務開始はできません。
Q. 破産手続き中であることを秘密にして、制限される職業の就職活動をしてもいい?
法令違反となる可能性があり、たとえ入社できたとしても後に懲戒処分を受けるおそれがあります。入社までに復権の見込みがあっても、破産手続き中であることは面接の際に伝えましょう。
Q. 自己破産をすると、家族の就職や資格に影響する?
本人が自己破産しても、家族の就職や資格は制限されません。
Q. 自己破産をしたことは、職場に知られる?
自己破産は官報(機関誌のようなもの)で公告されますが、職場の人がそれを閲覧することはほとんどありません。自分から話さない限り、知られる可能性は低いでしょう。
ただし、職業制限の対象となっている職種に就いている場合は、自己破産の事実を職場に伝える必要があります。
13. まとめ 自己破産で職業制限を受けたら適切な対処を行い復権まで待とう
自己破産をすると、各種士業、公的機関・金融機関の役員、警備員などの一部職業は制限がかかり、業務に就けなくなります。免責許可決定が確定するなどして復権するまでは、制限が続きます。
自己破産を申し立てる前に、自身の職業が制限対象に該当するかを確認しておきましょう。職業制限が問題となる場合は、任意整理や個人再生といった別の手続きも視野に入れるべきです。
弁護士や司法書士に相談すれば、職業制限による影響も踏まえたうえで、最適な解決策を提案してもらえます。職業制限に該当する場合も諦めずに相談しましょう。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています)


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