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1. 破産管財人とは
破産管財人(はさんかんざいにん)とは、破産の開始決定時に破産者の財産についての管理・処分権を持つ者のことを言います。
自己破産では、自己破産をする人の生活に必要最低限以外の高価な財産は、没収・換金されて、銀行や消費者金融などの債権者(お金を貸した側)に分配(配当)されます。この手続きを行うために、裁判所から選任されるのが破産管財人です。
破産管財人(管財人とも呼ぶ)は、自己破産をする人や債権者などから独立した中立公平な立場で手続きに関与し、自己破産をする人に代わって財産を管理し、①財産の整理(財産の現金化など)、②借金の確定と債権者への配当手続きを行うほか、③借金の返済義務を免除する決定をしても良いかどうかの調査(免責調査)などを行います。
事案の内容に応じて、裁判所が管轄する地方に所属する弁護士から適切な者を選任します。近年は破産管財人が選任されるケースが微増傾向にあります。
2. 破産管財人の役割や権限とは
破産管財人には、以下の役割や権限があります。
それぞれについて、詳しく解説します。
2-1. 借金の経緯や原因を調査する(免責を認めてよいかチェック)
破産管財人は、借金の経緯や原因を調査し、自己破産をする人に免責を認めることが適当かどうかを検討します。
免責とは、借金の返済義務を免除する裁判所の決定のことです。ただし、破産手続を行えば必ず免責が認められるわけではありません。
例えば、借金の大部分がギャンブルによるものであったり、過去7年以内に免責を受けた経験がある場合は「免責不許可事由」といって、原則として免責が認められません。そのため、破産管財人は、借り入れの経緯や原因などを調査し、免責不許可事由の有無を確認します。
仮に不許可事由があったとしても、裁判所の裁量で免責を認めるかどうかを検討し、その結果を裁判所に意見として伝えます。
2-2. 債権者と借金の金額を確定させる
自己破産をする人に高価な財産があり、それを換金することで債権者への配当が見込まれる場合、破産管財人は債権調査を実施します。簡単に言えば、借金や借り入れ先に関する調査のことです。
破産管財人は、債権者から提出される債権届や債権に関する資料などをもとに、債権調査を行い、借金の有無、借金の金額、債権の種類(優先的に配当すべきか否か)を確定させます。
なお、配当が見込まれない場合には、債権調査を行わない運用にしている裁判所が多いと考えられます。
2-3. 財産の管理や現金化をする
破産管財人は、破産開始決定時点における自己破産をする人の財産を管理します。その目的は、債権者へ配当をしやすくするほか、自己破産をする人による財産の勝手な処分を防止するためです。
例えば、自己破産をする人に過払い金があると見込まれる場合には、債権者に対して不当利得返還請求を行い、過払い金を回収します。また、不動産がある場合には、不動産業者と協力して売却処分を行い、配当がしやすいように財産を現金化します。
なお、自己破産をする人の生活に必要な財産は、「自由財産拡張」という手続きを利用して、財産の管理権を自己破産をする人に戻すことが可能です。自由財産の拡張の手続きは各裁判所によって運用が異なりますが、一般的には評価額99万円までの財産(現金や預貯金・保険の返戻金など)については自己破産をする人の手元に残せます。
生活に必要な財産は自己破産をする人が手元に残して管理を行い、破産管財人は、自由財産の対象外となる財産を管理します。
2-4. 現金化した財産を債権者に分配する
破産管財人が現金化(換価処分)して一定の財産を確保した場合、債権者への分配手続きに進みます。さいたま地方裁判所では、40万円を超える財産が確保された場合に、配当が実施される可能性があります。
2-5. 裁判所や債権者に報告する
破産管財人は、債権者集会という場で以下の内容を報告します。
自己破産をする人が自己破産に至った経緯
自己破産をする人の所有する財産の状況
配当の見込み
また、自己破産をする人に免責を認めることが適当かどうかについて、裁判所に意見書を提出します。
3. 破産管財人が選任されるケース・されないケース
自己破産の手続きには、「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類があります。このうち、破産管財人が選任されるのは「管財事件」になります。
同時廃止事件と管財事件のどちらになるのかは、各裁判所の振り分け基準にもとづき、裁判官が事案ごとに判断します。以下のようなケースでは、破産管財人が選任されることになります。
【弁護士に依頼せずに申立てを行った場合】
裁判所によっては、申立代理人(弁護士)なしで自己破産の申立てを行った場合、破産管財人が選任されます。これは、申立てに必要な調査や資料が不足するケースが想定されるためです。
【一定の財産がある状態で申立てを行った場合】
自己破産をする人が一定の財産を持っている場合も、破産管財人が選任されます。これは、財産の換価処分や配当が必要となるためです。
【免責不許可事由が認められる場合】
免責不許可事由の可能性がある事案においては、内容の調査や免責不許可事由の有無を判断するために破産管財人が選任されます。また、自己破産をする人の生活再建の指導などを期待して、選任されることもあります。
【法人破産の場合】
法人破産では、すべての事案について詳細な資産や事業の調査が必要であるため、破産管財人が選任されます。
【自営業者の場合】
一定程度の金銭の出入りがある場合には、資産・事業の調査が必要となり、破産管財人が選任されます。
なお、同時廃止事件の場合には、破産手続の開始と同時に手続きが終了(廃止)となり、調査が不要であるため、破産管財人は選任されません。


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4. 破産管財人が選任された場合に起こること
破産管財人が選任された場合、自己破産をする人にも以下のような影響があります。
破産管財人の調査に協力する必要がある
郵便物は破産管財人に配達される
転居・旅行・出張などは裁判所の許可が必要になる
手続き中に就けない職業がある
4-1. 破産管財人の調査に協力する必要がある
自己破産をする人は、破産管財人が行う調査に協力する義務があります。破産管財人の調査などに協力しない場合は、免責不許可事由に該当して、自己破産が認められない可能性があるため、注意が必要です。破産管財人から、面談などを通じて説明や報告を求められた場合にはしっかりと対応しましょう。
4-2. 郵便物は破産管財人に配達される
破産管財人が選任されると、自己破産をする人宛ての郵便物はすべて破産管財人に転送されます。これは、財産調査の一環で、借金や財産が漏れていないかどうか確認するためです。破産管財人は郵便物を開封する権限があり、債権者の漏れや未申告財産がないかを確認します。
実際、銀行や証券会社、保険会社からのハガキなどによって、報告されていない財産が見つかることがあります。なお、宅配便などは転送されません。また、破産管財人には守秘義務があるため、手紙の内容を他者に開示することはありません。
4-3. 転居・旅行・出張などは裁判所の許可が必要となる
破産手続中は破産管財人による調査に協力する義務があるため、申立て時の自宅住所を離れることは制限されます。転居による住所変更や海外旅行、2泊以上の国内旅行などで自宅を離れる場合には、事前に裁判所の許可を得る必要があります。出張など仕事上の都合であっても許可が必要です。
4-4. 手続き中に就けない職業がある
管財事件の手続中は、他人の財産や秘密を扱う職業に就くことができません。例としてよく挙げられるのは以下のような職業です。
弁護士
税理士
宅地建物取引士
警備員
保険募集人
ただし、これらはあくまで手続き中の制限であり、免責許可決定を得られれば復職できます。
5. 破産管財人にかかる費用は?
管財事件の場合には破産者に対して50万円以上の予納金を求める裁判所が多いです。しかし、自己破産をする人の経済的な負担が重いという問題がありました。そこで、財産調査などの必要がある事案について、迅速かつ簡易な手続きが可能となるよう、予納金を低く設定する「少額管財」という制度が導入されました。
東京地裁で開始された運用ですが、現在は多くの裁判所で同様の運用がされており、少額管財事件の予納金は20万円と設定している裁判所が多いようです。
予納金は、破産管財人に対する最低限の報酬を担保するためのものであり、破産手続きをスムーズに進めるうえで必要です。しかし、最低限の報酬では到底進められないような事案では、裁判所が求める予納金額が変わってきます。例えば、産業廃棄物の処理に大きな費用が必要となるような事案が考えられます。
なお、予納金は分割での支払いも事実上認められていますが、速やかに破産手続きを開始してもらうためには、できる限り申立て時までに予納金を準備しておくことが理想です。
6. 破産管財人が選任されるときの流れ
破産管財人が選任されてから手続き終了までは、以下のような流れで進みます。
破産管財人の選任
破産管財人との面談
財産の調査・処分
債権者集会
債権者への配当
免責許可の決定
6-1. 破産管財人の選任
裁判所は、事案の内容に応じて適切な破産管財人の候補者を選び、就任を打診します。破産管財人候補者はその後、自己破産をする人の弁護士から申立書などの副本を受領し、事案の把握に努めます。また、債権者などとの利害関係の有無などを確認し、裁判所からの依頼を受けるに支障がないかを判断します。特に問題がなければ、正式に破産管財人として選任されます。
6-2. 破産管財人との面談
破産手続の開始決定後、自己破産をする本人とその弁護士が、破産管財人の事務所に出向き、面談が実施されます。この面談では、破産に至った経緯や、申立書では明らかでなかった部分、破産開始決定時点の財産状況(最新の預金残高など)について確認が行われます。
適切な申立てで複雑な要素がなければ、面談は30分程度で終了します。ただし、申立書の内容に不備がある場合や、債権回収・換価などに関する詳細な事情聴取が必要な場合は、1時間以上かかることもあります。
免責不許可事由がある事案では、初回面談に加え、定期的な面談を通じて生活再建に向けた指導が行われることもあります。
6-3. 財産の調査・処分
自己破産をする人の財産は原則として換金され、債権者に分配されます。ただし、評価額が99万円までの財産には、生活の維持や再建に必要な「自由財産」として所有が認められます。一方で、自由財産と認められなかった財産は、すべて破産管財人によって現金化されます。
例えば、預金や保険契約、車両などが自由財産とされることが多い一方、不動産や株式などの有価証券は自由財産の対象外となり、現金化されます。
6-4. 債権者への配当
破産管財人が財産調査・換価を行い、一定の財産が確保された場合は、債権者への配当手続きが行われます。
破産管財人は、債権者から提出された債権届や資料をもとに、債権者であるかどうか、債権額がいくらか調査します。この債権調査結果を踏まえ、認められた債権額に応じた割合で配当を実施します。
6-5. 債権者集会
配当を終えた後は、裁判所にて債権者集会を行います。債権者集会では、破産管財人が行った業務や自己破産をする人の財産状況などについて、債権者へ報告します。しかし、実際には、債権者が出席するケースはほとんどありません。
債権者が出席するのは、配当が実施される事案やお金を貸したのが個人である場合(消費者金融などの仕事でお金を貸している債権者以外)、大規模な破産事案などです。破産管財人からの報告に対して疑問がある場合、出席した債権者から質問されることがあります。
6-6. 免責許可の決定
債権者集会に引き続き、免責決定を行うか判断するための「免責審尋期日」が実施されます。免責審尋では、裁判官、破産管財人、自己破産をする人、自己破産をする人が依頼した弁護士が集まり、面接が行われます。
破産管財人は、免責不許可事由の有無や、裁量免責が妥当かどうかを事前に検討しているため、この期日において意見を述べます。裁判所は破産管財人の意見も踏まえて、免責の可否を判断し、最終的な結論を下します。
債権者集会が1回で終わる場合、申立てから免責許可決定までの期間は、4カ月から6カ月程度です。
7. 自己破産の手続きを弁護士に依頼するメリット
自己破産の手続きについては、各地の裁判所によって異なる提出資料や運用ルールがあります。これらに沿わない申立てを行うと、「少額管財事件」ではなく、「通常の管財事件」として処理され、予納金の負担が増える可能性があります。
しかし、これらのルールを熟知している弁護士に依頼することで、少額管財事件で手続きを進められる可能性が高まり、結果的に費用負担も軽減できます。
さらに、破産管財人との面談や債権者集会への出席時には、弁護士が同席するため、安心して手続きが進められます。自己破産の手続きや、免責不許可事由などの不安がある場合は特に弁護士への依頼を検討するとよいでしょう。
8. 破産管財人に関するよくある質問
Q. 破産管財人を自分で選ぶことはできる?
破産管財人は中立・公平な立場で手続きに関与する必要があるため、自己破産をする人が自ら選ぶことは認められません。
Q. 財産隠しは破産管財人にばれる?
財産隠しは破産管財人にばれる可能性があります。破産管財人は、申告された財産目録や資料をもとに調査を行います。不審な点がある場合は、追加の報告を求めるほか、独自に調査することもあります。また、債権者からの報告や、自己破産をする人宛の郵便物から新たな借金や財産が発覚することもあります。
なお、財産を隠す行為は免責不許可事由に該当し、さらに破産法上の「詐欺破産罪」として刑事罰を受ける可能性もあるため、必ず正直に申告しましょう。
Q. 不動産を所有している場合、自己破産前に売却すべき?
不動産を所有している場合、自己破産前に売却するのは避けてください。自己破産前に不動産などの財産を不当に安価な金額で売却すると、本来あるべき財産が減少し、配当を受ける債権者の利益を損なうおそれがあります。こうした行為は、免責不許可事由に該当する可能性もあります。破産申立て前に所有していた財産は、そのまま破産管財人に引き継ぐのが原則です。
なお、自己破産前に財産を売却した場合、破産管財人が認否権という権利を行使して、売却した財産を回収します。
早期に破産申立てを行う必要がある場合などで、弁護士費用や予納金などの申立て費用を準備するために、やむを得ず財産を処分するケースもあります。しかし、このような場合でも、安価での売却が問題となる可能性があるため、必ず弁護士と相談して適切な対応を行ってください。
9. まとめ 破産管財人は自己破産をする人の財産管理やお金を貸した人へ配当を行う重要な人
破産管財人は、自己破産をする人の財産管理や換価処分、そして銀行や消費者金融などの債権者へ配当を行うなどの重要な役割を担っています。自己破産が公正に進められるように監督する立場であり、決して自己破産をする人を不当に責めたり、免責を妨害する存在ではないため、恐れる必要はありません。
しかし、自己破産の手続きや破産管財人への対応など不安がある場合は、弁護士に依頼することで安心して手続きを進められます。また、「少額管財事件」として費用負担が抑えられることも期待できます。自己破産に不安を感じている場合は、一人で悩まず、自己破産の経験豊富な弁護士に相談してみるとよいでしょう。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)


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