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1. 自己破産をすると養育費はどうなる? 免責される?
「自己破産」とは、借金の返済が不可能になった場合、裁判所への申し立てによって借金を全額免除してもらう手続きを指します。自己破産の手続きをすると高額な財産は処分されて、銀行やカード会社などお金を貸している債権者に分配されますが、生活に必要な財産は手元に残ります。
「養育費」は、夫婦が離婚した際に経済的、社会的に自立していない子どもがいる場合、その子どもと離れて暮らす親が、子どもと同居し面倒を見ている親に対して支払う費用を指します。金額や支払い期間、支払い日などは、基本的には双方の話し合いによって決めますが、それが守られず、養育費が未払い状態になっているケースは少なくありません。
自己破産をする際、未返済の借金のなかに養育費が含まれるケースもあります。結論から言うと、未払いの養育費がある場合、自己破産をしても免責、すなわち支払い義務を免れることはできません。
1-1. 養育費は「非免責債権」 自己破産をしても免責は認められない
「非免責債権」とは、自己破産しても支払い義務が免除されない債務を指します。扶養義務に基づく養育費は非免責債権にあたるため、自己破産をしても免責は認められません。
なお、非免責債権には、税金や社会保険料、不法行為に基づく損賠賠償請求権、雇用している従業員に対する給与なども含まれます。
1-2. 自己破産によって免責される債務の具体例
自己破産をして免責される債務は、個人や金融機関などからの借金、クレジットカードの利用料金、未払い分の家賃や水道光熱費などが該当します。
2. 養育費を払えないとどうなる?
取り決めた養育費を子どもと一緒に生活して日常的な世話をしている監護親に支払っていないと、相手方から訴訟を提起されたり、強制執行によって財産を差し押さえられたりするおそれがあります。
3. 養育費を払えない場合の解決策は?
自己破産などによって養育費を支払えなくなったときの解決策について解説します。
3-1. まずは話し合い、まとまらなければ養育費減額調停へ
まずは養育費を減額してもらえるよう相手方と交渉し、まとまらない場合は養育費減額調停を申し立てます。調停は、管轄の家庭裁判所に申立てをします。申立書などの作成すべき書類は家庭裁判所の公式ホームページからダウンロードでき、記載例も載っています。その他の必要書類や申し立て費用の金額も、家庭裁判所のホームページに記載されています。
申立て費用は、収入印紙が子ども1人につき1200円、そのほかに郵便切手代も必要となりますが、その金額は裁判所により異なります。
3-2. 養育費の減額が認められ得るケース
自分の収入が大幅に減った場合や、相手の収入が大幅に増えた場合、再婚により扶養すべき家族が増えた場合など、養育費を取り決めたときから収入や扶養家族についての事情が大きく変化した場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。ただし、収入の多少の増減は考慮の対象にはなりません。
3-3. 養育費の時効は?
養育費の請求権は通常、5年で消滅時効を迎えます。ただし、調停、審判、裁判などによって養育費の支払いが取り決められた場合は、消滅時効は10年となります。


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4. 自己破産時の養育費の取り扱いと注意点
自己破産をした場合に養育費がどのような扱いになるのか、その注意点について解説していきます。
4-1. 自己破産の申立て方法
自己破産の申立ては、管轄の地方裁判所にします。自分自身での申立ても可能ではありますが、必要な準備、作成書類、提出書類などが多岐にわたり、複雑であるため、一般的には弁護士に依頼します。
なお、自己破産を申し立てる際には、債権者の個人情報や借金をした時期、返済期限、現在の残高などを明記した「債権者一覧表」を作成しますが、未払いの養育費についてもここに記載されます。
4-2. 自己破産の手続きが開始されたことは相手方に通知される
債権者一覧表に記載された債権者には、裁判所から破産通知が送付されます。債権者はこのタイミングで自己破産の手続き開始を知ります。
4-3. 未払い養育費の支払いが偏頗弁済(へんぱべんさい)となるケース
破産開始決定前に未払いだった養育費は、免責が認められると支払いの義務が免除される可能性がある「破産債権」となります。ただし、破産の準備に入った段階で未払いだった養育費を支払うと、特定の債権者に対してのみ利益となるような返済をしたとみなされます。
特定の債権者に対してのみ利益となる返済は「偏頗弁済」と呼ばれます。これに該当すると、破産管財人が支払いの効力を否定する「否認権行使」の対象となる可能性があり、場合によっては破産の免責が不許可となって借金が残ってしまう可能性もあります。
もっとも、養育費請求権は非免責債権とされています。養育費が子どもの生活のために重要なものであり、強く保護する必要があると考えられているためです。
そのため、養育費については、収入とのバランスから不相当に多額であったり、未払いが長期にわたっていてあまりに巨額になっていたりしなければ、偏頗行為否認の対象とはならず、支払いの継続が許されます。
4-4. 破産手続開始の決定により、養育費の強制執行は中止される
破産手続きの開始決定前に、未払いの養育費について強制執行の手続きに入っている場合、裁判所が破産手続き開始の決定を行うと、その時点で強制執行の手続きは失効します。
4-5. 自己破産中・自己破産後における養育費の支払い方法
破産手続きの開始決定前から未払いとなっている養育費については、金額によっては支払った時点で偏頗弁済となる可能性があるため、必ず申立代理人に相談してください。
一方で、破産手続き開始決定後に生じる養育費は、破産債権にはなりません。破産手続きとは関係なく対応しなければならない「手続外債権」であり、自身の自己破産の手続き開始決定後に取得する新得財産から支払う必要があります。
5. 2026年5月までに施行|先取特権(さきどりとっけん)の導入による影響は?
2026年5月までに施行される予定となっている改正民法により、養育費に一般先取特権が付与されることになります。
一般先取特権とは、債務者が破産した場合に、ほかの債権者に優先して借金の返済を求められる権利です。民法改正後は、未払いの養育費について相手方から先取特権を行使され、訴訟提起や強制執行がなされる可能性があります。
6. 自己破産と養育費を弁護士に相談するメリット
自己破産における養育費の取り扱いに関するルールは複雑で、適切に対応するのは簡単ではありません。弁護士のサポートを受ければ、法律や運用のルールに沿って適切に対応できるので、必ず相談し、申立代理人になってもらってください。また、破産申し立てだけでなく、養育費の支払いが苦しい場合の対処法についても、状況に応じてアドバイスを受けられます。
弁護士としての筆者の経験では、病気による収入の激減を受け、調停によって養育費の減額が認められたケースや、破産者に養育費の未払いがあったものの、申立代理人からの相談によって偏頗弁済にはならないと判断されたケースなどがあります。自己破産と養育費の未払いの問題を抱えている場合は、弁護士への早めの相談をお勧めします。
7. 自己破産と養育費に関連してよくある質問
Q. 生活保護を受けながらでも、養育費は払わないといけない?
生活保護を受けている場合でも、それだけが理由で養育費の支払い義務はなくなりません。ただし、養育費を取り決めたときから経済的な事情が大きく変化しているのであれば、交渉や養育費減額調停を通じて減額が認められる場合もあります。
Q. 自己破産に伴い養育費を減額してもらったが、また稼げるようになったら養育費が増額される?
減額時に比べて経済的に収入が増えている場合には、養育費が増額される可能性があります。相手方が養育費増額の交渉をしてきたり、養育費増額調停を申し立てたりする展開が見込まれるためです。
Q. 自己破産者が未払いの養育費を払った場合、必ず偏頗弁済になる?
破産手続開始決定前の未払いの養育費を破産の準備に入った段階で支払った場合でも、必ず特定の債権者に対してのみ利益となる偏頗弁済になるわけではありません。むしろ、適切な金額であれば偏頗弁済にならないと判断されるケースが多いです。
ただし、無断で支払うのではなく、破産の準備を依頼している申立代理人の弁護士に必ず相談するようにしてください。
Q. 元夫が自己破産した場合、養育費は支払ってもらえる?
養育費は破産をしても免責されないので、支払いを受ける側は養育費を請求する権利はあります。
もっとも、自己破産するほど経済的に困窮していると考えられるため、実際は支払ってもらえない可能性が高いです。その場合は、相手の給与を差し押さえて養育費を確保するなどの方法があります。
8. まとめ 自己破産と養育費の問題は弁護士のサポートが有効
借金の返済が不可能になり、自己破産を選択したとしても、養育費は非免責債権であるため、支払い義務は免責されません。養育費は子どもの生活に重要なものであるという特殊性から、破産手続きにおいても特別な扱いがされる場合があります。破産の準備に入った段階で養育費を支払っても、特定の債権者に対してだけ利益となる偏頗弁済には該当しないとされたケースも少なくありません。
ただし、破産手続き自体は非常に複雑で専門的な知識が必要ですし、自己破産をする際の養育費の扱いについても特殊なルールがあります。破産を考えるにあたって未払いの養育費があったり、養育費の支払いに困っていたりする場合には、必ず弁護士に相談してください。
(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています)


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