個人再生すると退職金はどうなる? 没収される? 証明書についても解説

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個人再生をすると退職金を受け取ることはできないのでしょうか(c)Getty Images
個人再生は、借金の負担を軽減しながら生活の立て直しをめざせる手続きです。一方で、退職金制度のある会社に勤めている場合、「個人再生をすると退職金に影響が出るのではないか」と不安に感じる人も少なくありません。 退職金は将来の生活を支える大切な資産であり、判断を誤ると不利益につながるおそれもあります。個人再生は手続きや判断基準が複雑なため、弁護士のサポートを受けながら進めることが重要です。 個人再生と退職金の関係や注意点について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

目 次

1. 個人再生をしても退職金は受け取れる

1-1. 個人再生で退職金は没収されません!

1-2. 自己破産との違いは?

2. なぜ返済額が増える?「清算価値保障原則と退職金の関係」

2-1. 清算価値保障原則とは?

2-2. 退職金が清算価値に含まれる理由

3. 清算価値に計上される退職金の計算方法

3-1. 具体的な退職予定がない場合の退職金見込額

3-2. 退職済みや退職見込みであるものの未受給である場合

3-3. すでに退職金として受け取ってしまっている場合

4. 退職金の額を証明する方法

4-1. 会社に個人再生などをすることがバレたくない場合

4-2. 退職金がない場合の証明はどうする?

5. 退職金と混同しやすい確定給付年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)や共済との違いは?

6. 退職金がある個人再生で失敗しないポイント

6-1. 手続きのタイミングを専門家と見極める

6-2. 正確な退職金額を把握し、無理のない再生計画を立てる

6-3. 安易に自己判断せず、必ず弁護士に相談する

7. 退職金があるケースで、個人再生の申立てを検討する上で弁護士に依頼するメリット

8. 個人再生と退職金に関してよくある質問

9. まとめ 個人再生を検討しているなら、早い段階で弁護士に相談を
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1. 個人再生をしても退職金は受け取れる

借金などの債務の額を大幅に減額する個人再生を行った場合の退職金について、説明します。

1-1. 個人再生で退職金は没収されません!


個人再生は、債務整理における法的手続きの一つです。借金などの債務の額を大幅に減額し、再生計画に従った返済ができれば、残りの債務が免除されるというものです。

「住宅ローンが残っている不動産を所有していて、そのまま住み続けることを希望する場合」「自己破産を申し立てても免責不許可となる可能性がある場合」「職業上の制約がある場合」などの事情があるときに、債務整理の方法として考えられる選択肢の一つです。

個人再生のイメージを図解。裁判所を通じて借金を大幅に減額し、3年から5年で分割返済する
個人再生のイメージを図解。裁判所を通じて借金を大幅に減額し、3年から5年で分割返済する

「個人再生を申し立てると、退職金は受け取れなくなるのではないか?」という不安が募るかもしれませんが、結論としては、退職金を受け取る権利はそのまま残るため、心配はいりません。

ただし、退職金額や債務者(お金を借りている人)の資産や負債の状況によっては、退職金があることで再生計画に基づき支払うべき返済総額が増える可能性があります。

1-2. 自己破産との違いは?


支払義務を完全に免除してもらう自己破産の場合は、破産手続開始時点の財産を評価して、自由財産(自己破産をしても処分されず、手元に残すことができる財産)として破産者に残す範囲が決まります。

退職金の評価方法は、手続き開始時点で自己都合退職をした場合における退職金見込額を基準に、一定の割合を乗じて算出されます。自己破産の場合は、自由財産として認められる範囲を超える財産を破産財団に組み入れる必要があります。

一方で、個人再生の場合は、債務額に応じて法律が定める「最低弁済額」と、自己破産をした場合における「配当額(清算価値)」のいずれか高いほうの金額が再生計画における弁済額になります。仮に最低弁済額が再生計画の弁済額となるケースでは、退職金があったとしても弁済額は増えません。

そのため、退職金があることにより債務者の返済額(自己負担分)に与える影響が少ないのは、個人再生であると言えます。

2. なぜ返済額が増える?「清算価値保障原則と退職金の関係」

個人再生には「清算価値保障原則」という重要なルールがあります。清算価値保障原則と退職金の関係について説明します。

2-1. 清算価値保障原則とは?


退職金があることで、個人再生における弁済額が増える可能性があります。

個人再生には、「清算価値保障原則」という重要なルールがあります。個人再生における再生計画に基づく弁済額が、自己破産をした場合の配当額を上回らないといけない、というルールです。つまり、銀行や消費者金融などの債権者にとって、個人再生が自己破産をした場合と比較して、メリットがあるものにしなければならないことになっています。

ここで言う清算価値は、自己破産をした場合に債権者に見込まれる配当額や自由財産として破産者に残すことができない財産の総額であると理解してよいでしょう。自己破産では、退職金やその他の財産を含めて自由財産として認められる金額の範囲に収まっていれば問題ありませんが、退職金の金額によっては、自由財産として認められる金額を上回る可能性があり、その場合は清算価値として評価されることになります。

つまり、退職金の金額が高ければ高いほど、清算価値が高くなります。個人再生は、債務額により法律が定める「最低弁済額」と「清算価値」のいずれか高いほうの金額が弁済額となるので、清算価値が最低弁済額を上回る場合は、退職金の金額が高くなればなるほど、個人再生の弁済額が増えることになります

2-2. 退職金が清算価値に含まれる理由


民事執行法では、将来発生する退職金についても差し押さえを認めています。この考え方と合わせるかたちで、現実に発生していない退職金についても債務者の財産に含めて検討する、すなわち退職金を清算価値に含めるという考え方が採用されています。

民事執行法では退職金についてその4分の1しか差し押さえを認めていないことや、実際に退職金を受給できないリスクがあることなどの事情をふまえ、多くの裁判所では、破産手続開始決定や再生計画策定時点における退職金の額面の8分の1に相当する額を評価額とする考え方を採用しています。

3. 清算価値に計上される退職金の計算方法

退職金を受け取るタイミングによって、清算価値に含まれる退職金の額が異なります。具体的な例を挙げながら確認していきます。

3-1. 具体的な退職予定がない場合の退職金見込額


退職金見込額の8分の1が清算価値となります。たとえば、退職金の見込額が400万円の場合は、50万円が清算価値に計上されます。

ただし、裁判所ごとに運用が異なる場合があるので注意が必要です。たとえば、東京地裁は「退職金見込額が160万円以下の場合(清算価値が20万円以下の場合)は、退職金の清算価値をゼロとして評価する」という運用をしています。一方で、大阪地裁ではそのような運用は行われていません。

3-2. 退職済みや退職見込みであるものの未受給である場合


退職済みではあるが退職金未受給の場合、退職金債権は発生していると認められるため、差し押さえが許容されている4分の1で評価される可能性が高いです。

一方で、間もなく退職する場合や定年が差し迫っている場合などでは、退職金債権が発生する可能性が高まっているとして4分の1として評価されることが多いです。

たとえば、すでに退職手続きを終えて退職金の支払いを待っている状態で、退職金見込額が800万円の場合は、その4分の1である200万円が清算価値として計上されます。

3-3. すでに退職金として受け取ってしまっている場合


すでに退職金として受け取ってしまっている場合は、もはや退職金としての性格を有していないため、預貯金や現金と同じ取り扱いがなされます。そうなると、自由財産として認められない部分について清算価値として計上されることになります。

なお、自由財産の範囲は各地の裁判所によって運用などが異なるため注意が必要です。

4. 退職金の額を証明する方法

退職予定がない場合、退職金額を証明するために、原則として会社が発行する「退職金見込額証明書」が必要になります。退職金見込額証明書は、会社に申請すれば発行してもらうことができます。

4-1. 会社に個人再生などをすることがバレたくない場合


個人再生をする場合、会社に説明する必要はありません。しかし、会社に個人再生をすることを伝えないまま、退職金見込額証明書を発行してもらう方法はあるのでしょうか。

筆者の経験上、退職金見込額証明書を出してほしいと会社に伝えても、その理由を聞かれるケースは多くありません。もし、証明書取得の理由を聞かれたとしても、ローンの審査に必要などと説明する方法もあります。

そのほか、退職金見込額証明書以外の資料で説明ができた事例として、退職金規程と給与明細を活用したケースがあります。このケースでは、在職期間ごとに付与されるポイントをもとに退職金を定めるルールでした。就業規則と退職金規程のコピーを用意し、給与明細に記載のあるポイントをもとに計算した報告書を提出することで、裁判所が納得してくれました。

そのほか、勤続年数に応じて退職金を定めるルールの場合は、源泉徴収票(入社日が記載されているケースがほとんどだと思います)を活用して、見込額を計算するという方法も選択肢の一つになります。

退職金の評価とその資料収集には専門的な知識が必要になるので、弁護士に相談することが望ましいと言えるでしょう。

4-2. 退職金がない場合の証明はどうする?


退職金がない場合は、その旨を会社に証明してもらう必要があります。会社に申請すれば、書類を発行してもらうことができます。

そのほかの方法としては、会社にそもそも退職金を支給する規程がない場合、就業規則に退職金の定めがないことを説明することで足りる場合もあります

また、雇用形態により退職金が支給されない場合は、就業規則や労働条件通知書などで説明できるケースもあります。

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5. 退職金と混同しやすい確定給付年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)や共済との違いは?

会社によっては退職金制度ではなく、確定拠出年金などの私的年金制度を採用していることもあります。

確定給付年金や確定拠出年金といったさまざまな年金は、民事執行法上、差押禁止財産として保護されており、法定自由財産として認められています。そのため、これらの年金については、その全額が清算価値に含まれません。

清算価値に含まれない年金や共済としては、以下のものがあります。

  • 確定給付企業年金及び確定拠出企業年金

  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)

  • 厚生年金基金の年金受給権

  • 小規模企業共済の共済金

  • 中小企業退職金共済

  • 建設業退職金共済

6. 退職金がある個人再生で失敗しないポイント

退職金がある個人再生で失敗しない主なポイントは、次の3つです。

6-1. 手続きのタイミングを専門家と見極める


退職予定がないケース、退職見込みであるケース、定年まで間もないケース、すでに退職して退職金を受領しているケースといったそれぞれの場面ごとに、退職金の評価方法が異なる可能性があります。そのため、同じ退職金であっても、手続きを開始するタイミングによって、個人再生の弁済額や自己破産で手元に残せる財産の範囲に差が生じることがあります。

自分に合った適切な手続きを進めていくためにも、弁護士に相談することをお勧めします。状況に合った適切なアドバイスを受けられるため、自身にとって最も負担の少ないかたちで再生計画を作成できるというメリットが得られます。

6-2. 正確な退職金額を把握し、無理のない再生計画を立てる


退職金見込額とその評価額を正確に把握することは、無理のない再生計画を策定するための大事なポイントです。前提部分で間違いがあると、再生計画における弁済額の総額や毎月の支払額も変わるため、注意しましょう。

6-3. 安易に自己判断せず、必ず弁護士に相談する


個人再生には、債務額に応じた最低弁済額の定め、清算価値保障原則と清算価値の算定といった注意が必要な事項が少なくありません。また、各地の裁判所ごとに退職金の取り扱いや自由財産の考え方が異なる運用もあるなど、留意すべき点もあります。

インターネット上の情報だけに頼るのではなく、実際に弁護士などの専門家に相談して、相談者の実情にあったアドバイスをもらうことが重要です。

7. 退職金があるケースで、個人再生の申立てを検討する上で弁護士に依頼するメリット

個人再生は、債務額に応じた最低弁済額の定めや清算価値保障原則などの理論的な難しさがあるほか、実際の再生計画の策定や債権者に対する対応など手続きも複雑で、自分で資料を収集したり、作成したりすることは非常に負担が大きいと言えます。この点、弁護士に依頼すれば複雑な手続きを任せることができ、負担を大きく減らすことができます。

そのほか、退職金見込額や退職金がないことの資料の収集や作成の場面でも、適切なアドバイスを受けることができます。実際、会社の協力が得られにくく、退職金見込証明書や退職金がないことの証明書がない場合であっても、弁護士が退職金について調査した結果を報告するという方法でも対応できるので、この点を考慮しても専門家に依頼するメリットは高いです。

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8. 個人再生と退職金に関してよくある質問

Q. 公務員の場合、退職金の取り扱いは変わるの?


会社員の退職金の場合と取り扱いは同じです。退職金の評価方法なども同じですが、退職間近の場合は、退職金が実際に支給される可能性が高いと判断され、通常の「見込額の8分の1」ではなく、「4分の1」に近い割合で評価されることもあります。

Q. 手続き中に自己都合で退職したらどうなる?


清算価値保障原則は、原則、再生手続開始決定時における財産の評価を前提に判断されることになります。再生手続開始決定前に退職をした場合で、その退職金の受け取り前であれば「退職見込みとしての評価」を、受け取り後であれば「現金や預貯金としての評価」を受けることになります。

一方で、再生手続開始決定後に退職手続きをした場合、原則、その退職金は「退職予定なしとして8分の1の相当額として評価される」ことになります。

Q. 会社に個人再生のことがバレないための方法は?


会社に個人再生のことを知られるとすれば、退職金見込額(もしくは退職金がないこと)の証明書取得の場面です。会社から証明書取得の目的を尋ねられたら、「家族から質問されている」「ローンを組むために必要」などと説明すると、会社に疑われにくいです。

退職金については、就業規則と退職金規程に定めがある場合が多いので、これらの規則などをコピーして、自身で計算をしてみる方法を検討してみましょう。

Q. 退職金の受取見込額に変動等があった場合はどうなる?


個人再生手続開始決定前に退職金の受取見込額に変動があった場合、清算価値保障原則の問題や弁済額に変動が生じるかもしれないので、できるだけ早く弁護士(個人再生申立後であれば裁判所にも)に相談しましょう。

なお、再生計画が認可されたあとに退職金の受取見込額に変動があったとしても、それにより弁済額が増えたり減ったりすることはありません。

Q. 契約社員やアルバイトの場合にも退職金証明は必要?


契約社員やアルバイトの場合は、裁判所からも退職金見込額証明書等の提出を求められないことが多いです。雇用契約書や労働条件通知書に退職金の支給の有無の記載があることが多いので、状況によってはこれらの資料を提出し、裁判所に説明することもあります。

9. まとめ 個人再生を検討しているなら、早い段階で弁護士に相談を

個人再生手続きにおける「退職金」にスポットを当てて、退職金の金額によって弁済額が増える可能性があることや、退職の見込みなどによって評価方法が異なる点を解説してきました。

個人再生は、手続きそのものの難しさがあるほか、各地の裁判所の運用基準を正確に把握する必要もあるため、個人再生を考えている場合は、できるだけ早い段階から弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

角憲和(弁護士)

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弁護士法人親和法律事務所大阪事務所 弁護士
大阪弁護士会所属。登録番号54989。法人や個人の自己破産申立事件、個人再生申立や債務整理事件を多く取り扱うほか、破産管財人として破産事件に関わる。最近は、代表者の経済的更生をさらに後押しするために、中小企業の事業再生などのガイドラインや経営者保証ガイドラインにもとづく私的整理手続きにも積極的に取り組んでいる。依頼者が債務整理に至った事情をしっかり聞き取り、依頼者のその後を見据えた方針の提案やサポートを行っている。
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