個人再生の最低弁済額 計算方法や事例を弁護士が解説

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個人再生には最低弁済額があり、借金がゼロになることはありません(c)Getty Images
個人再生は、裁判所を通じて借金を最大で10分の1まで減額できる債務整理の手続きです。大きな減額が可能な方法ですが、借金がゼロになることは原則ありません。これは「最低でもこれだけは返済しなければならない」という最低弁済額(さいていべんさいがく)が法律で定められているためです。 もともとの借金額と最低弁済額の差が小さい場合、個人再生をしてもあまり減額効果が得られないこともあります。そのため、個人再生が適切かどうかは、弁護士や司法書士に相談するのが確実です。 最低弁済額とは何か、どう決まるのか、支払えなかった場合どうなるのかを、弁護士がわかりやすく解説します。

目 次

1. 個人再生の最低弁済額とは

1-1. 法律で決められた最低限の返済額

1-2. 個人再生手続きにおける債務の圧縮(減額)の限度

2. 個人再生で最低弁済額が決まる3つの基準

2-1. 基準債権額による最低弁済基準

2-2. 清算価値保障基準(保有する資産価値)

2-3. 可処分所得基準(手取り)

3. 個人再生の最低弁済額の計算例

3-1. 小規模個人再生の場合

3-2. 給与所得者等再生の場合

4. 個人再生の最低弁済額はどのように返済する?

4-1. 個人再生の返済期間は原則3年

4-2. 個人再生の返済方法は3カ月に1回

4-3. 個人再生の月々の支払い額の計算方法

5. 個人再生の最低弁済額が支払えないとどうなる?

5-1. 個人再生の認可が取り消される

5-2. 借り入れ先から訴えられる可能性がある

6. 個人再生の最低弁済額を払えない場合の対処法

6-1. 債権者に個別に支払い期限を猶予してもらう

6-2. 再生計画の変更を申し立てる

6-3. ハードシップ免責を認めてもらう

6-4. 自己破産をする

7. 個人再生の最低弁済額に関するよくある質問

8. まとめ 個人再生の最低弁済額は複雑なため弁護士への相談がおすすめ
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1. 個人再生の最低弁済額とは

1-1. 法律で決められた最低限の返済額


個人再生では、借金を大きく減らすことができますが、「最低限これだけは返済しなければならない」という金額(最低弁済額)が法律で定められています。この最低弁済額を下回る返済計画は認められないため、個人再生では「借金がゼロになる」ことは原則ありません

1-2. 個人再生手続きにおける債務の圧縮(減額)の限度


最低弁済額がいくらになるかは、住宅ローンを除く借金の総額や保有する財産の価値などによって決まります。

借金の総額により決まる最低弁済額については以下のことが言えます。

借金が100万円未満の場合:全額を返済する必要がある(減額できない)
借金が100万円以上の場合:最低でも100万円を返済する必要がある

つまり、借金額によっては、個人再生をしても減額幅が小さくなることがあります。具体的な基準については、次の見出しで詳しく説明します。

2. 個人再生で最低弁済額が決まる3つの基準

個人再生では、最低弁済額が3つの基準のいずれかによって決まります。個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続きがあり、それぞれ以下の方法で最低弁済額が決定されます。

【小規模個人再生の場合】
「基準債権額による最低弁済基準」と「清算価値保障基準」のうち、金額が多い方が適用される

【給与所得者等再生の場合】
「基準債権額による最低弁済基準」「清算価値保障基準」「可処分所得基準」の3つのうち、最も金額が高いものが適用される

以下で、それぞれの基準がどのように決まるのかを説明します。

2-1. 基準債権額による最低弁済基準


一つ目は、住宅ローンを除く借金の総額によって決まる最低返済額の基準です。具体的な金額は以下の通りです。

借金の総額

最低弁済額

100万円未満

全額返済(減額なし)

100~500万円未満

100万円

500~1500万円未満

借金の20%

1500~3000万円未満

300万円

3000万円~5000万円未満

借金の10%

たとえば、借金額が300万円の人の最低弁済額は100万円です。借金額が4000万円の人の場合は、10%の400万円が最低弁済額となります。これは、最低限返済しなければいけない金額であり、これ以上に借金が減額されることはありません

2-2. 清算価値保障基準(保有する資産価値)


二つ目は保有する財産の価値によって決まる「清算価値保障基準」です。個人再生では、自己破産のように申立人の財産を現金化して借金の返済に充てることはありません。しかし、個人再生の場合でも、自己破産した場合より少ない金額しか返さないのは認められないという考え方があります。これを「清算価値保障原則」と言います。

たとえば、申立人が自己破産をすると仮定し、そのときに差し押さえの対象となる財産が300万円ある場合は、個人再生でも最低300万円は返済しなければならないことになります。清算価値に計上される財産には車や不動産、預貯金などがあり、裁判所によって基準が異なります。

ただし、現金99万円以下など、生活に必要な最低限の財産については、清算価値から除かれることとなるため、すべての財産が対象になるわけではありません。

2-3. 可処分所得基準(手取り)


個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続きがありますが、可処分所得基準が適用されるのは「給与所得者等再生」の場合のみです。

ここでいう「可処分所得」とは、給与などの収入から税金や社会保険料、そして生活に必要な支出を差し引いた残りの金額を指します。この基準では、最低でも2年間分の可処分所得の合計額を返済しなければならないとされています。

たとえば、月々の可処分所得が5万円であれば、年60万円×2年=120万円の返済が最低でも必要になります。他の二つの基準と比べると、金額が高くなりやすい傾向にあります

3. 個人再生の最低弁済額の計算例

ここでは、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」のケースに分けて、どのように最低返済額が決まるのかを、具体的な数字を使って計算例を紹介します。

3-1. 小規模個人再生の場合


まずは小規模個人再生の場合の計算例です。前提条件は以下の通りとします。

  • 借金総額(住宅ローンを除く):700万円

  • 預貯金:50万円

  • 生命保険の解約返戻金:60万円

  • 自動車の評価額:50万円

次に、各基準に基づいて最低弁済額を計算します。

【① 基準債権額に基づく最低弁済額】
700万円の借金は、5分の1が最低弁済額となります。
→700万円×1/5=140万円

【② 清算価値に基づく最低弁済額】
保有資産の合計が、最低返済額の下限として扱われます。
→ 50万円(預貯金)+60万円(保険)+50万円(自動車)=160万円

【最終的な最低弁済額】
①と②のうち、金額が大きい方が最低弁済額となるため、今回のケースでは②の160万円が最低弁済額となります。

3-2. 給与所得者等再生の場合


次は、給与所得者等再生の場合の最低弁済額の計算例です。前提条件は以下の通りとします。

  • 借金総額(住宅ローンを除く):800万円

  • 預貯金:60万円

  • 生命保険の解約返戻金:30万円

  • 自動車の評価額:60万円

  • 1年間の可処分所得:90万円

次に、各基準に基づいて最低弁済額を計算します。

【① 基準債権額に基づく最低弁済額】
800万円の借金は、5分の1が最低弁済額となります。
→ 800万円×1/5=160万円

【② 清算価値に基づく最低弁済額】
→60万円(預貯金)+30万円(生命保険)+60万円(自動車)=150万円

【③ 可処分所得に基づく最低弁済額】
→1年あたりの可処分所得90万円 × 2年分 = 180万円

【最終的な最低弁済額】
①②③の中で最も高い金額が適用されます。今回のケースでは③の180万円が最低弁済額となります。

4. 個人再生の最低弁済額はどのように返済する?

上記のように算出された最低弁済額は、個人再生手続きの中で定める再生計画案に基づいて、分割払いにより、銀行や消費者金融などの債権者(お金を貸した側)に返済していくことになります。

4-1. 個人再生の返済期間は原則3年


個人再生の返済期間は、原則として3年間です。ただし、収入状況などを考慮して3年では返済が難しい場合には、「特別な事情」があると認められれば、最長で5年まで延ばすことも可能です。「特別な事情」とは、たとえば収入が少なくて3年間では返済できそうにない、といった事情を具体的に説明できるケースが該当します。

4-2. 個人再生の返済方法は3カ月に1回


再生計画では、3カ月に1回以上のペースで支払うことが法律で決められています。毎月返済することも可能ですが、多くの場合は振込手数料や手間を減らすため、3カ月分をまとめて支払う方法が選ばれています。

4-3. 個人再生の月々の支払い額の計算方法


月々の支払い額は、最低弁済額と返済期間から計算できます。たとえば、最低弁済額が180万円で、返済期間が3年(36カ月)であれば、1カ月あたりの支払いは5万円となります。

ただし、実際の再生計画では「3カ月に1回以上の支払い」がルールとなっているため、多くの場合は3カ月分をまとめて支払う形がとられます。つまりこのケースでは、3カ月ごとに15万円をまとめて支払うことになります。

なお、支払いのたびに発生する振込手数料は申立人側が負担します。

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5. 個人再生の最低弁済額が支払えないとどうなる?

個人再生が認められ、再生計画に基づいて分割返済がスタートした後でも、事情により返済が滞ってしまう場合があります。最低弁済額の支払いができなくなった場合に起こりうる影響は、以下の通りです。

5-1. 個人再生の認可が取り消される


再生計画に従った返済が続けられなくなると、債権者の申し立てによって、裁判所が再生計画を取り消すことがあります。法律上、債務者(お金を借りた人)が再生計画に違反している場合、一定の条件を満たす債権者は、計画の取り消しを求めることが認められています。

この「一定の条件」とは、未払いの返済額の合計に対して、10分の1以上の金額の債権(貸付金など)を持っている債権者であることです。

もし再生計画が取り消されてしまうと、借金は個人再生前の金額に戻り、減額前の全額を返済しなければならなくなります。ただし、それまでに再生計画に基づいて支払った分は差し引かれます。

5-2. 借り入れ先から訴えられる可能性がある


再生計画の取り消しを求める条件を満たしていない債権者であっても、返済が滞っていることを理由に、訴訟を起こすことは可能です。最低弁済額の支払いが止まってしまえば、債権者から裁判を起こされ、判決を取られたうえで財産を差し押さえられるリスクも出てきます。

万が一返済が難しくなった場合には、放置せず、すぐに弁護士などの専門家に相談することが大切です。

6. 個人再生の最低弁済額を払えない場合の対処法

個人再生では、最低弁済額の支払いが難しくなると、再生計画の取り消しや訴訟、差し押さえといったリスクが生じることがあります。そうした事態を防ぐために、以下のような対処法を検討することが重要です。

6-1. 債権者に個別に支払い期限を猶予してもらう


再生計画どおりに返済ができない場合でも、債権者に対して個別に支払い期限の猶予を交渉することは可能です。たとえば、3カ月分の返済が遅れてしまった場合に、その滞納分をさらに6カ月に分けて支払わせてもらえないかといった内容で話し合い、滞納分に関する支払い計画を債権者と合意することなどが考えられます。

6-2. 再生計画の変更を申し立てる


再生計画における返済期間は原則3年、例外的に5年まで延ばせますが、それでも支払いが困難になったときには、さらに最長2年の延長を裁判所に申し立てることができます。この変更が認められるには、「やむを得ない事情があること」「現在の計画を続けるのが著しく難しいこと」の2点を満たす必要があります。たとえば、収入が減ったり、転職後に給料が下がった場合などがこれに当たります。

6-3. ハードシップ免責を認めてもらう


再生計画の遂行中に、残りの返済を免除してもらえる「ハードシップ免責」という制度があります。この制度を利用するには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 自分の責任ではない理由で返済が極めて困難になったこと

  • 再生計画で定められた弁済額のうち、4分の3以上をすでに支払っていること

  • 免責が債権者全体の利益に反しないこと

  • 再生計画の変更や延長をしても返済が困難であること

ハードシップ免責が認められると、住宅ローンの残債も含めて返済義務がなくなるため、抵当権に基づき自宅が差し押さえられて、手放さざるを得なくなる可能性が高いです。こうしたデメリットがあることや、そもそも認められる条件が厳しいことから、ハードシップ免責が実際に利用されるケースはごく限られています。

6-4. 自己破産をする


個人再生の再生計画が認められた後に、どうしても返済が難しくなった場合は、自己破産に切り替えることも可能です。自己破産を申し立てて、裁判所から免責が認められれば、税金など一部の支払いを除き、再生計画の借金を含めたすべての借金が免除されます。

ただし、こちらも自宅を所有している場合には手放さなければならなくなるという点では、ハードシップ免責と同様です。

7. 個人再生の最低弁済額に関するよくある質問

Q. 最低弁済額での返済が難しい場合は別の債務整理をした方がいい?


最低弁済額を試算して月々の返済が厳しい場合は、任意整理や自己破産も検討しましょう。また、個人再生での分割払いの期間の観点から、3年での返済が難しくても、5年払いにすれば現実的なケースもあります。

Q. 住宅ローンは最低弁済額に影響する?


住宅資金特別条項を使えば、住宅ローンは最低弁済額の計算から除外されます。ただしローン自体の支払い義務はそのまま続く点に注意が必要です。

Q. 個人再生の最低弁済額が高くなるケースは?


高額な財産を持っている場合は最低弁済額も上がります。特に住宅の評価額が高く、ローン残高を上回る「アンダーローン」の場合は要注意です

Q. 小規模個人再生と給与所得者等再生はどちらの方が最低弁済額が少ない?


小規模個人再生の最低弁済額は、給与所得者等再生の最低弁済額と同じか、それ以下となります。給与所得者等再生では、可処分所得基準が加わるため、弁済額が上がりやすくなるからです。ただし、給与所得者等再生は債権者の反対があっても認可されるのが特徴で、債権者からの同意を得るのが難しいときなどに選ばれます。

8. まとめ 個人再生の最低弁済額は複雑なため弁護士への相談がおすすめ

個人再生では借金額がゼロになるわけではなく、必ず返済しなければならない「最低弁済額」があります。最低弁済額は、①基準債権額、②清算価値、③可処分所得の3つの基準をもとに決められ、「小規模個人再生」「給与所得者等再生」のどちらで手続きをするかによって、どの基準を採用するかが異なります。

基準債権額による計算は比較的わかりやすいものの、清算価値や可処分所得の算出は複雑です。手続きには専門知識が必要な場面も多いため、一人で抱え込まず、早めに弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

亀田治男(弁護士)

亀田治男(弁護士)

プログレ総合法律事務所 代表弁護士
2010年弁護士登録。法律事務所勤務および企業内弁護士を経て、2018年に渋谷プログレ法律事務所(現プログレ総合法律事務所)を設立。以後、相続や不動産問題を中心とした一般民事(訴訟案件等)と企業法務を取り扱う。宅地建物取引士、マンション管理士、英検1級を保有。東京弁護士会所属、登録番号41782。
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