自己破産で通帳の提出が必要な理由は? どこまで調べるかも解説

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自己破産では自分名義のすべての通帳を提出する必要があります(c)Getty Images
自己破産を申し立てる際には、残高がゼロの口座や長期間使っていない口座も含め、すべての通帳を提出しなければなりません。裁判所や破産管財人は、通帳から支払不能の有無や財産、不自然な入出金を確認します。 ネット銀行や休眠口座も例外ではなく、提出を怠ると「財産隠し」と疑われ免責不許可につながるおそれがあります。何年分の通帳を出せばいいのか、原本とコピーのどちらを提出すればいいのかなど、手続き面で迷ったら早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。 通帳提出が必要な理由、求められる年数、提出できない場合の対処法、注意点などについて解説します。

目 次

1. 自己破産を申し立てる際には、預貯金通帳の提出が必要

2. 自己破産時に通帳の提出が求められる理由

2-1. 支払不能かどうかを確認するため

2-2. 保有財産額を確認するため

2-3. 不正な出金の有無を確認するため

3. 自己破産時に通帳はどこまで(何年分)調べられる?

4. 自己破産時に通帳を提出しないとどうなる?出し忘れただけなら問題ない?

5. 自己破産時に通帳が提出できない場合はどうする?

5-1. 通帳が発行されていない場合(Web通帳など)

5-2. 通帳を紛失した場合

5-3. 合計記帳になっている場合

6. 自己破産時に提出した通帳について指摘を受けるケース

6-1. 支払不能後に多額の出金がなされている

6-2. 申告していない保険や固定資産税の引き落としがなされている

6-3. 積み立て用の出金がなされている

6-4. 残高がマイナスになっている

7. 通帳に関する指摘を受けるとどうなる?

8. 自己破産時に通帳を提出する方法と注意点

9. 自己破産の手続きを弁護士に相談・依頼するメリット

10. 自己破産と通帳に関するQ&A

11. まとめ 自己破産では所有するすべての通帳が必要
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1. 自己破産を申し立てる際には、預貯金通帳の提出が必要

自己破産を申し立てる際は、申立人名義のすべての銀行口座の通帳を提出しなければなりません。残高がゼロの口座や長期間動きのない口座も対象です。これは裁判所や破産管財人が隠し財産を確認するためです。「使っていない口座は不要か」と質問を受けることもありますが、原則すべて提出が必要です。

裁判所によって運用が異なりますが、たとえば岡山地裁の運用では直近2年分の通帳コピーが求められます。閉鎖済み口座は不要ですが、解約していない限り提出が必要です。破産管財人が選任されれば、原本の確認を求められる場合もあります。

自己破産を検討する人は、早めに通帳を整理し、2年分の履歴を用意しておきましょう。

2. 自己破産時に通帳の提出が求められる理由

自己破産時に、現在使っていない中身がゼロの口座も含めて、すべて提出しなければならない理由を説明します。

2-1. 支払不能かどうかを確認するため


自己破産が認められるには、法律上の要件として「支払不能」であることが必要です(破産法15条)。支払不能とは、単に一時的にお金が足りないという状態ではなく、継続的に借金を返済できない状態をいいます。破産法2条11号では「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」と定義されています。

実務では、年収の3割程度の借り入れがあると返済が苦しいと判断し、破産したほうが良いとアドバイスすることが多いです。返済額が収入を大きく上回り、生活費を差し引くと返済に充てる余力がない場合は「支払不能」と判断されます。

この判断材料として裁判所が確認するのが通帳です。通帳の履歴を見れば、収入と支出のバランス、返済の滞り方などが分かるため、破産者の提出した家計収支表との相違を確認し、本当に支払不能かどうかをチェックできます。

2-2. 保有財産額を確認するため


自己破産では、申立人がどのくらいの財産を持っているかを正確に把握する必要があります。破産法では、破産者の財産を「破産財団」と呼び、そこから管財人の費用や債権者への配当が行われます。

そのため、預貯金の額を確認することは非常に重要です。預貯金は生活でよく使われ、動きも分かりやすいため、通帳の提出が必須とされています。財産がほとんどなければ「同時廃止」となり、手続きは比較的早く終了しますが、一定以上の財産があると「管財事件」となり、換価や調査のために時間と費用がかかります

2-3. 不正な出金の有無を確認するため


通帳を確認するのは、財産を正しく把握するだけでなく、不自然な出金がないかを調べるためでもあります。たとえば、申立て直前に高額の引き出しや一部の債権者だけへの返済があると「財産隠し」や「偏った返済」と見なされるおそれがあります

過去2年以内にこのような取引があると、裁判所が免責を認めない可能性もあるため、場合によっては2年間申立てを控えるよう助言されることもあります。

3. 自己破産時に通帳はどこまで(何年分)調べられる?

通帳提出は「どこまで遡るか」が問題になります。岡山地裁では直近2年分が必要とされていますが、他の裁判所では1年分で足りる場合もあります。通帳が繰り越されている場合も、2年間さかのぼれるように古い通帳や取引明細をそろえる必要があります。

通帳が手元にない場合は金融機関で取引履歴を発行してもらえます。発行には数百円から千円程度の手数料がかかることもあります。自己破産を考える段階で、早めに通帳を整理し、不足があれば金融機関に確認して準備を進めることが大切です。

4. 自己破産時に通帳を提出しないとどうなる?出し忘れただけなら問題ない?

自己破産を申し立てる際、通帳の提出は必須です。裁判所は財産状況を把握するために通帳の履歴を確認するので、提出しなければ手続き自体が進みません。弁護士や司法書士に依頼する場合も、必要書類をそろえてから申立てを行うのが原則であり、「出し忘れ」は基本的に起こりません。もし依頼者が提出を拒めば、正確な財産申告ができないため、受任を続けられないこともあります。

一方で、存在を忘れていた通帳が後から見つかることはありますが、その場合は速やかに追加提出すれば大きな問題にはなりません。ただし、意図的に隠したと判断されれば「財産隠し」とされ、免責が認められなかったり、最悪の場合は詐欺破産罪に問われたりする可能性もあります。

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5. 自己破産時に通帳が提出できない場合はどうする?

紛失などが理由で通帳を提出できない場合の対処法を紹介します。

5-1. 通帳が発行されていない場合(Web通帳など)


ネット銀行などで紙の通帳がない場合も、口座情報の提出は必要です。このときはインターネットバンキングの取引履歴を印刷したものやスクリーンショットで代用できます。大切なのは、金融機関が特定でき、一定期間の取引内容が確認できることです。

5-2. 通帳を紛失した場合


通帳そのものがなくても、取引履歴があれば問題ありません。銀行に依頼すれば通帳の再発行や明細書の発行をしてもらえます。特に直近1〜2年分の入出金が分かる資料をそろえることが重要です。手数料がかかることもありますが、破産手続きには不可欠なので必ず取り寄せましょう。

5-3. 合計記帳になっている場合


長期間記帳していないと、入出金が「合計記帳」としてまとめられ、詳細が分からなくなります。そのままでは不十分と判断されるため、銀行で該当期間の明細を発行してもらう必要があります。発行には日数や費用がかかることもあるので、早めに対応しましょう。

6. 自己破産時に提出した通帳について指摘を受けるケース

通帳には財産状況がはっきり表れるため、裁判所や管財人から指摘を受けることがあります。代表的な例を紹介します。

6-1. 支払不能後に多額の出金がなされている


支払い不能になった後に多額の出金があると、特定の債権者だけを優遇した「偏頗弁済」や「財産隠し」と疑われます。これは免責不許可の理由になり、詐欺破産に問われる可能性もあります。そのため弁護士は申立て前に使途を確認し、不自然な出金がある場合は申立て自体を止めることもあります。

6-2. 申告していない保険や固定資産税の引き落としがなされている


通帳に保険料や固定資産税の引き落としがあると、追加の調査を求められることがあります。積立型の保険なら解約返戻金が財産となり、申告が必要です。固定資産税の引き落としがあれば、不動産所有の可能性があるため、登記簿の確認を求められます

6-3. 積み立て用の出金がなされている


通帳に「積立」や「定期的な引き落とし」の記録があると、証券口座や投資信託に資金が回っている可能性があります。証券口座に残高があれば財産として申告しなければならず、漏れがあれば裁判所から必ず指摘を受けます。

6-4. 残高がマイナスになっている


通帳がマイナス残高のときは「総合口座貸越」による借り入れが行われている可能性があります。これは預金を担保に自動的に借り入れが行われる仕組みで、実際には債務です。定期預金も財産として計上が必要で、債権者や財産の申告漏れがないよう注意しなければなりません。

7. 通帳に関する指摘を受けるとどうなる?

自己破産の手続きでは、裁判所や破産管財人が通帳を細かく確認します。不自然な入出金があれば質問を受け、正当な理由を説明できれば大きな問題にはなりません。ただし、金額が大きい場合や「財産隠し」「特定の債権者だけへの返済」と疑われる場合は、詳しい調査が行われ、免責が認められない可能性もあります。悪質と判断されれば、詐欺破産罪として刑事罰の対象となる可能性があります。

疑いがかかる可能性のある入出金履歴の例を紹介します。

年月日

入出金

内容

残高

2023年12月28日

出:1万円

返済(消費者金融A)

12万5000円

2024年1月12日

出:6万5000円

家賃支払い

6万円

2024年1月18日

入:100万円

山田太郎(仮名)から

106万円

2024年1月29日

出:1000円

宝くじ購入

105万9千円

2024年2月1日

出:100万円

ATM引き出し

5万9000円

2024年2月2日

出:2万円

鈴木一郎(仮名)へ

3万9000円

2024年2月5日

破産申立日

3万9000円

上記で疑いがかかるポイントを説明します。

  1. 破産前に特定の債権者へ返済しているため「偏頗弁済」の疑い(申立日からさかのぼって3カ月以内は特に注意)

  2. 通常の生活費のため問題なし

  3. 知人名義からの高額入金。借り入れか贈与か不明で「財産隠しや使途不明金」の疑いがかかる

  4. 少額だが娯楽的支出。これが続くと「浪費や射幸行為による免責不許可事由」として指摘される可能性あり

  5. 多額の現金引き出し。行き先・使途不明の場合「財産隠し」とみなされるおそれ

  6. 個人への振り込み。「債権者隠し」や「偏頗弁済」と疑われるおそれ

問題になるのは入出金の「使途」です。多額の取引でも、領収書や契約書などの証拠があれば説明は通りますが、書面がないと口頭説明に頼るしかなく、説得力に欠けます。自己破産では誠実な対応が大切で、不自然な点を放置すると不利益につながるため、普段から領収書や契約書を残しておくことが重要です。

8. 自己破産時に通帳を提出する方法と注意点

自己破産を申し立てる際には、必ず通帳を提出しなければなりません。提出の仕方には注意点があります。まず、裁判所に出すのは通帳のコピーで足りますが、もし破産管財人が選任された場合には、原本を直接確認のために預ける必要があります。そのため、通帳はきちんと手元にそろえておくことが重要です。

また、提出する口座は「残高がある口座」だけではありません。残高が0円であっても、長期間まったく動きがない休眠口座であっても提出が必要です。裁判所や管財人は「隠し財産がないか」を確認するため、口座を一つでも漏らすと「財産隠し」と疑われ、免責不許可事由に該当するリスクがあります。

さらに、通帳は最新の記帳まで済ませておくことが重要です。例えば、1カ月前で止まっている通帳を出すと「直前の動きが分からない」と指摘され、再記帳と補正を求められることがあります。裁判所によっては「申立日の2週間以内の記帳」が必要とされる場合もあるため、早めに準備しておくことが大切です。

9. 自己破産の手続きを弁護士に相談・依頼するメリット

自己破産には通帳のほか、給与明細や税務関係書類、借入契約書など多くの資料が必要です。これを自力で集めて整理するのは大変で、準備不足から手続きが止まる人も少なくありません。弁護士に依頼すれば、必要な書類やそろえる範囲を具体的に指示してもらえ、効率的に進められます

また、破産管財人が付く場合に必要な「予納金」も、本人申立てより弁護士申立てのほうが低くなるのが一般的です。時間や労力だけでなく、費用面でも弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。

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10. 自己破産と通帳に関するQ&A

Q. 自己破産を申し立てる際、同居家族の通帳も提出する必要がある?


自己破産の申立てでは、同居家族の収入や生活費の負担状況を確認されます。家計全体が把握できない場合には、家族名義の通帳も提出を求められることもあります。

Q. ネット銀行の通帳も提出する必要がある?


ネット銀行の口座も提出が必要です。自己破産では「すべての口座」を対象とするため、ネット銀行だからといって例外にはなりません。通帳が発行されない場合は、インターネットバンキングの画面から取引履歴を印刷するか、PDFやスクリーンショットで出力し、裁判所に提出します。

Q. 破産申立ての直前にPayPay送金をしたらバレる?


銀行口座からの出金は通帳に記録されるため、裁判所や管財人に分かります。生活に必要な範囲なら問題ありませんが、PayPay残高も財産として申告が必要です。隠すと免責不許可や刑事罰の対象になる可能性があるため、キャッシュレス残高も正直に申告しましょう。

11. まとめ 自己破産では所有するすべての通帳が必要

自己破産の申立てでは、すべての通帳を正直に提出することが不可欠です。休眠口座やネット銀行も例外ではなく、最新の記帳まで済ませた履歴を用意する必要があります。不自然な出金や申告漏れは「財産隠し」と疑われ、免責が認められないリスクもあります。

書類をそろえるのは大変ですが、弁護士に依頼すれば効率よく準備でき、予納金の負担も軽減されるケースが多いです。通帳提出は自己破産の根幹に関わるため、準備不足にならないよう注意しましょう。

(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

加藤 高明(弁護士)

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Adam法律事務所 代表弁護士
2008年関西学院大学大学院情報科学専攻修了。法科大学院を経て、2011年司法試験合格、2012年弁護士登録、2022年Adam法律事務所設立。現在は、青年会議所や商工会議所青年部を通じた人脈による企業法務、借金問題、相続問題、男女問題などに従事する。趣味は筋トレやスニーカー収集。岡山弁護士会所属、登録番号47482。
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