目 次
朝日新聞社運営「債務整理のとびら」で
債務整理に強い弁護士・司法書士を探す
債務整理に強い
弁護士・司法書士を探す
1. 自己破産をする場合は引っ越しできない?できる?状況別に解説
憲法で保障された「居住・移転の自由」があるため、自己破産をしても原則として引っ越しができなくなるわけではありません。
ただし、破産の進行状況や手続きの種類によっては、裁判所の許可が必要な場面もあります。ここでは、自己破産の段階ごとに引っ越しが可能かどうかを解説します。
1-1. 自己破産の申立て前|自由に引っ越しができる
自己破産の申立て前であれば、基本的に自由に引っ越しできます。法律上の制限はなく、住み替えも可能です。
ただし、新居の契約や引っ越しに伴って発生する初期費用、仲介手数料、家具の購入費用など、まとまったお金が必要になります。そうした費用が浪費と見なされることもあるため、注意が必要です。
また、引っ越すことで自己破産を申し立てる裁判所の管轄が変わります。例えば、都道府県をまたぐ転居をした場合、申立先が変更となり、弁護士の対応範囲や裁判所への出頭に影響が出ることがあります。破産の申立てを依頼している弁護士がいれば、引っ越しを決める前に必ず相談しましょう。
1-2. 自己破産の申立て後(同時廃止事件の場合)|自由に引っ越しができる
自己破産の申立て後でも「同時廃止事件」として扱われる場合には、引っ越しは制限されません。この手続きは、破産者に換価できる財産がほとんどなく、債権者への配当も行わないため、破産手続きの開始と同時に終了するという簡易的な清算方法です。財産隠しや逃亡のおそれがないと判断されるケースが対象になります。
同時廃止事件では、裁判所から破産手続き上の居住制限が課されることはなく、引っ越しに裁判所の許可を得る必要もありません。ただし、自己破産に伴う免責手続き(借金の免除)は並行して進行するため、転居した際には住所変更を届け出る義務があります。
届出を怠ると通知が届かず、手続きに支障が出るおそれがあるため、引っ越した際には必ず管轄の裁判所や弁護士に報告してください。
1-3. 自己破産の申立て後(管財事件の場合)|手続き中は裁判所の許可が必要
破産者に一定の財産がある場合、手続きは「管財事件」として扱われ、破産管財人が選任されます。この場合、引っ越しをするには原則として裁判所の許可が必要です。なぜなら、破産者は管財人の調査や債権者への配当などの手続きに協力する義務があり、無断で転居するとそれに支障が出る可能性があるためです。
引っ越しの必要がある場合は、まず破産管財人に転居理由と新住所を伝え、了承を得たうえで「転居許可申立書」を裁判所に提出します。裁判所が許可を出せば転居が可能になりますが、無許可で引っ越した場合は破産法違反と見なされ、免責(借金の免除)が認められないリスクもあります。
また、管財事件では2泊以上の旅行や出張であっても裁判所の許可が必要です。手続き中の移動は、自己判断で行わず、事前に管財人か弁護士に相談しましょう。
1-4. 破産手続きの終了後|自由に引っ越しができる
すべての破産手続きが終了すれば、引っ越しの自由は完全に回復します。裁判所の許可も不要となり、転居の制限もなくなります。
ただし、自己破産の履歴が信用情報に一定期間登録されるため、賃貸住宅を借りる際に審査が通りにくくなるケースも見られます。とくに、家賃保証会社が信販会社系である物件では審査が厳しくなる傾向があります。
また、引っ越しにはまとまった費用がかかります。自己破産によって借金を整理した後すぐに無理な支出をしてしまうと、再び家計が苦しくなるおそれもあります。自己破産後に生活を立て直すためには、引っ越しも慎重に計画することが大切です。
無理のない範囲で物件を選び、資金計画を立てたうえで行動に移しましょう。
2. 自己破産の申立て後に、引っ越しが必要になるケースは?
自己破産をしても、必ずしも住まいを失うとは限りません。ただし、住んでいる物件の種類や状況によっては、引っ越しを余儀なくされる場合があります。
2-1. 自分が所有する持ち家に住んでいる場合
自己所有の持ち家に住んでいる場合は、住宅ローンの有無にかかわらず、自己破産をすると住み続けることが難しくなります。住宅ローンが残っている場合、ローンを支払えなくなると担保権の実行によって競売手続きが開始され、売却された家を明け渡す必要があります。
また、ローンが完済されていても、破産管財人が債権者への配当を行うために持ち家を売却するケースが一般的です。いずれにしても、新たな所有者が決まれば退去が求められます。
2-2. 賃貸物件の家賃を滞納している場合
自己破産を理由に、すぐに賃貸契約を解除されることはありません。家賃を継続して支払っていれば、そのまま住み続けることが可能です。
家賃の滞納がある場合は注意が必要です。とくに、支払いの遅れが長期間にわたると、大家から契約を解除される可能性があります。目安として3カ月程度滞納し、支払いの見込みが立たない場合は、退去を求められるリスクが高まるため、引っ越しが必要になることがあります。
2-3. 家族に対する持ち家の譲渡が否認された場合
自己破産後も住み続けるために持ち家を親族に売却し、そこを借りて住み続けるという形をとる方もいます。しかし、このような不動産の処分は、時期や金額によっては「財産隠し」とみなされ、破産手続きの中で否認されることがあります。
たとえば、申立て直前に行われた売却や、市場価格よりも極端に安い金額での売却は、破産管財人から名義変更をなかったことにするよう求められる可能性があります。
否認が認められると物件は再び破産財団(処分の対象)に戻され、通常の資産と同様に処分の対象になります。親族以外の第三者に売却された場合には、住み続けることは難しくなり退去を求められます。このような処分は、免責の判断に影響を与えることもあるため、申立て前の対応には注意が必要です。
弁護士・司法書士をお探しなら
朝日新聞社運営「債務整理のとびら」
3. 自己破産は入居審査に影響する?対処法は?
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報が登録されます。いわゆる「ブラックリストに載る」と表現される状態で、クレジットカードやローンの審査に影響します。
ただし、賃貸住宅の入居そのものが制限されるわけではありません。重要なのは、物件ごとに異なる「保証会社」の存在です。なかでも、信販系の家賃保証会社を利用する物件では、過去の自己破産歴により審査に通らないことがあります。
また、家賃保証会社の中には、LICC(全国賃貸保証業協会)といった独自の信用情報機関を利用している場合もあり、過去に家賃滞納があると、さらに厳しい審査となることがあります。このようなケースでは、保証会社を必要としない物件(UR賃貸、公営住宅、親族などによる連帯保証で契約できる物件)を検討するのが現実的です。
入居先の選択肢は限られる可能性がありますが、事前に不動産会社に相談することで、対応可能な物件を見つけやすくなります。
4. 自己破産をするとき、引っ越し費用は残せる?ない場合はどうすべき?
自己破産では、原則として財産は処分の対象となりますが、生活の再建に必要な最低限の財産、たとえば評価額が99万円以下の現金などは「自由財産」として手元に残すことができます。この範囲内であれば、引っ越し費用として使うことも可能です。
自己破産により住まいを退去しなければならない場合は、あらかじめ引っ越しにかかる費用を見積もり、必要な支出として準備しておくと安心です。どうしても費用を用意できないときは、破産管財人に持ち家の処分時期や明け渡し時期について相談できる場合もあります。
また、生活状況によっては生活保護を受けることで引っ越し費用が支給される可能性もあるため、お住まいの自治体に確認しておくとよいでしょう。
引っ越し費用を用意できない場合でも、持ち家を手放す際に住宅ローンを組んでいた金融機関などから一時的に引っ越し代を負担してもらえるケースもあります。ただし、本来は他の債権者に配分されるお金にあたるため、必ず支給されるものではなく、あまり期待しない方がよいでしょう。
5. 自己破産に伴い引っ越す場合は弁護士に相談を
自己破産を申し立てる前後に引っ越すこと自体が、不利益につながるわけではありません。ただし、時期や経緯によっては、免責が認められない可能性もあるため注意が必要です。
たとえば、必要性がないのに転居を繰り返していたり、持ち家を相場よりも大幅に安い価格で売却して引っ越した場合は、浪費や財産の処分を疑われるおそれがあります。破産管財人が選任される「管財事件」に該当する場合、裁判所の許可を得ずに引っ越すと、義務違反と判断されることもあります。
このように、自己破産と引っ越しにはさまざまな注意点があります。とくに申立て直前の転居は、事前に弁護士に相談し、必要性や費用負担などの問題をクリアにしてから実行しましょう。
6. 自己破産と引っ越しに関するよくある質問
Q. 自己破産をすると住所に制限はある?
申立て前や手続き終了後は、引っ越しに制限はありません。同時廃止事件のように、開始と同時に手続きが終わるケースでも自由に転居できます。ただし、管財事件では破産管財人との連携が必要なため、裁判所の許可を得ずに引っ越すと免責不許可のリスクもあります。
Q. 自己破産をしたら、今住んでいる賃貸物件はどうなる?
家賃をきちんと支払っていれば、自己破産をしてもそのまま住み続けられるのが一般的です。ただし、2~3カ月以上の滞納があると、大家から契約解除を通知され、退去を求められる場合があります。滞納がある方は、早めに状況の見直しをしましょう。
Q. 自己破産をする場合、引っ越しや住民票の移動はいつからできる?
管財事件では、破産手続き中の転居や住民票の移動には裁判所の許可が必要です。それ以外のケースでは原則自由ですが、申立て直前の引っ越しは、浪費や財産の散逸と疑われるおそれがあります。トラブルを避けるためにも、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
Q. 自己破産をしても、県外に引っ越せる?
申立て前に県外へ引っ越す場合は、手続きの申立先となる裁判所が変わるだけで、引っ越し自体に制限はありません。申立て後に引っ越す場合も、管轄の裁判所は変わらず、手続きは元の裁判所で進められます。
管財事件では、破産手続き中の転居には裁判所の許可が必要ですが、転勤など正当な理由があれば、県外への引っ越しでも許可が下りないことは通常ありません。ただし、特に必要がないのに遠方へ転居すると、裁判所の調査や管財業務に支障が出ると判断される可能性もあります。転居を考える際は、事前に弁護士へ相談するようにしましょう。
7. まとめ 自己破産中の引っ越しはケースごとの制限と注意点を確認
自己破産中に引っ越しをすることは可能ですが、管財事件では裁判所の許可が必要になるなど、ケースによって制限があります。また、申立て直前の転居は「財産隠し」などの疑いを招くリスクもあるため慎重な判断が求められます。
転居のタイミングによっては、申立先の裁判所が変わる場合もあるため、引っ越しの予定がある方は、申立て前に弁護士へ相談しておくことが重要です。
(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています)
朝日新聞社運営「債務整理のとびら」で
債務整理に強い弁護士・司法書士を探す