目 次


朝日新聞社運営「債務整理のとびら」で
債務整理に強い弁護士・司法書士を探す
債務整理に強い
弁護士・司法書士を探す
1. 別除権とは?
「別除権」とは、破産や民事再生(個人再生を含む)の手続きの影響を受けずに行使できる権利です。先取特権・質権・抵当権などの担保権が別除権として取り扱われています。
別除権を有する人を「別除権者」といいます。別除権者は、破産手続きや再生手続きによらずに、別除権を行使して自分の債権(お金を請求する権利)を優先的に回収できます。
1-1. 別除権の効力
別除権を有する人は、債務者(お金を支払う義務を負う人)について破産手続きや再生手続きが開始されても、その手続きによらずに別除権を行使できます。
破産手続きと再生手続きの概要は、それぞれ以下のとおりです。
【破産手続き(主に自己破産)】
債務者の財産を処分して債権者に配当したあと、支払い切れなかった債務(お金を支払う義務)が免責されます。
【再生手続き(個人再生を含む民事再生)】
債権者の決議と裁判所の認可を得た再生計画に従い、債務者が負っている債務が減額されます。
破産手続きと再生手続きは、原則としてすべての債権者が対象になります。対象となった債権者は、債権の全部または大部分を回収できなくなり、大きな不利益を被ってしまいます。
しかし、別除権は破産手続きや再生手続きによらずに行使できます。そのため、別除権者は裁判所に申立てを行って担保物を競売し、その代金から債権を優先的に回収することができます。
たとえば、自己破産を申し立てた債務者が、不動産以外に全く財産を持っていなかったとします。不動産に担保権が設定されていなければ、不動産の売却代金が各債権者へ公平に配当されます。しかし、財産が足りないため債務を完済することはできず、各債権者は債権の一部を回収できるにとどまります。
これに対して、不動産に担保権が設定されていれば、担保権者はそれを別除権として行使できます。不動産の競売によって得られた代金から、ほかの債権者と分け合うことなく、自分の債権を優先的に回収することができます。
1-2. 別除権と担保権の違い
別除権とは、破産手続きや再生手続きの外で行使できることに注目した担保権の呼称です。
別除権は、通常時は「担保権」と呼ばれています。担保権とは、債権が約束どおり支払われなかった場合に、担保物を競売した代金から優先的に債権を回収できる権利です。
担保権が付された債権が未払いの状態で、債務者について破産手続きや再生手続きが始まると、その手続きの中で担保権が別除権として取り扱われます。前述のとおり、別除権は破産手続きや再生手続きによらずに行使できます。
2. 別除権の種類と内容
別除権に当たる担保権としては、以下の例が挙げられます。
特別の先取特権
質権
抵当権
商事留置権
所有権留保
譲渡担保権
以下、各担保権の概要を解説します。
2-1. 特別の先取特権
「先取特権」とは、債務者の財産の競売等によって得た代金を、ほかの債権者に先立って回収できる権利です(民法303条)。先取特権は、法律上の規定に従って発生します。当事者の合意によって発生するものではありません。
民法では、以下の先取特権が認められています。
①一般の先取特権
債務者の総財産について発生する先取特権です。以下の原因によって生じた債権について認められています。
・共益の費用
・雇用関係
・葬式の費用
・日用品の供給
②特別の先取特権
債務者の特定の財産についてのみ発生する先取特権です。以下の原因によって生じた債権について認められています(カッコ内は、先取特権の対象となる物)。
(a)動産の先取特権
・不動産の賃貸借(不動産に備え付けられた物など)
・旅館の宿泊(宿泊客の手荷物)
・旅客または荷物の運輸(運送人の占有する荷物)
・動産の保存(保存していた物)
・動産の売買(売買の目的物)
・種苗または肥料の供給(土地から生じた果実)
・農業の労務(その労務によって生じた果実)
・工業の労務(その労務によって生じた製作物)
(b)不動産の先取特権(その不動産)
・不動産の保存
・不動産の工事
・不動産の売買
特別の先取特権(動産および不動産に設定)は、破産手続きおよび再生手続きにおいて別除権として取り扱われます。特別の先取特権によって担保されていた債権が未払いのまま破産手続きや再生手続きが始まったら、債権者は対象物の競売を申し立てることができます。
一方、一般の先取特権は別除権に当たりません。したがって、担保権の実行によって債務者の財産の競売を申し立てることはできません。ただし、破産手続きや再生手続きにおいて、一般の先取特権を有する債権者には優先権が認められています。
2-2. 質権
「質権」とは、債務者から預かっていた物の売却によって得られた代金から、債権を優先的に回収する権利です(民法342条)。質権は動産・不動産・債権のいずれにも設定できます。
たとえば、Aから100万円を借りているBが、Aに対して100万円相当の腕時計を預けて質権を設定したとします。この場合、Bが100万円を約束どおりに返済しなければ、Aは腕時計を売却して、その代金から100万円を回収することができます。
質権は、破産手続きおよび再生手続きにおいて別除権として取り扱われます。質権によって担保されていた債権が未払いのまま破産手続きや再生手続きが始まったら、債権者は質物を売却して債権を回収できます。
2-3. 抵当権
「抵当権」とは、不動産・地上権・永小作権について設定される担保権です。質権と異なり、動産や債権には設定できません。
たとえば、住宅ローンを借りる際には、購入または建築する不動産に抵当権を設定するのが一般的です。住宅ローンが約束どおり支払われなかったときは、抵当権の対象となっている不動産の競売などを申し立てることができます。
抵当権は、破産手続きおよび再生手続きにおいて別除権として取り扱われます。抵当権によって担保されていた債権が未払いのまま破産手続きや再生手続きが始まったら、債権者はそれらの手続きによらず、抵当物である不動産などの競売などを申し立てることができます。
2-4. 商事留置権
「留置権」とは、自分が占有している他人の物の返還を、その物に関する債権が支払われるまで拒否できる(=留置できる)権利です。
たとえば、AがBの物を有償で預かって保管しているとします。BがAに対して保管費用を支払わない場合には、預かっている物を返すようBに要求されても、Aは留置権に基づいて返還を拒否できます。
留置権のうち、商法または会社法の規定に従って生じる以下のもの(=商事留置権)は、破産手続きおよび再生手続きにおいて別除権として取り扱われます。
①代理商の留置権
②商人間の商取引によって生じる留置権
③運送取扱人の留置権
④運送人の留置権
商事留置権の対象物の所有者について破産手続きが始まった場合、その商事留置権は特別の先取特権とみなされます(破産法66条1項)。そのため、商事留置権者は別除権を行使し、その物を競売した代金から優先的に債権を回収できます。ただし商事留置権は、法律の規定によって生じるほかの特別の先取特権に対して後れるものとされています(同条2項)。
また、商事留置権の対象物の所有者について再生手続きが始まった場合、商事留置権者はその物を引き続き留置できます。
なお、上記以外の留置権(=民事留置権)は、破産手続きや再生手続きにおける別除権に当たりません。民事留置権の対象物の所有者について破産手続きが始まった場合、民事留置権は失効します(破産法66条3項)。また、民事留置権の対象物の所有者について再生手続きが始まった場合、民事留置権の実行は禁止または中止されます(民事再生法39条1項)。
2-5. 所有権留保
法律上の明文規定がないものの、実務慣習上認められている担保権を「非典型担保」といいます。非典型担保は、破産手続きや再生手続きにおいて別除権として取り扱われています。
非典型担保の代表例の一つとして挙げられるのが「所有権留保」です。所有権留保とは、売買契約の当事者間において、代金を担保する目的で、対象物の所有権を形式上売主に残しておくことをいいます。たとえば、自動車を購入する際のディーラーローンでは、所有権留保を設定するのが一般的です。この場合、ローンを完済するまで所有権は売主に残ることになります。
所有権留保によって担保されていた代金が未払いのまま破産手続きや再生手続きが始まったら、売主は売買契約を解除して、債務者(買主)に対して対象物を引き渡すよう請求できます。
2-6. 譲渡担保権
「譲渡担保権」も代表的な非典型担保の一つで、別除権の対象となります。譲渡担保とは、担保の目的で対象物の所有権を形式上移転することをいいます。
たとえば、A社がB社に対して事業用資金を貸す際、B社が工場で保管している機械に譲渡担保権を設定するとします。B社が約束どおりに返済をしなかった場合、A社は機械を売却して、その代金から貸付金を回収することができます。
譲渡担保権によって担保されていた債権が未払いのまま破産手続きや再生手続きが始まった場合も、上記のケースと同様に、譲渡担保権者は債権を優先的に回収することができます。


弁護士・司法書士をお探しなら
朝日新聞社運営「債務整理のとびら」
3. 別除権が行使される際の手続き
別除権は、その担保権を行使する本来の方法に従い手続きを行います。具体的には、以下の手続きによることになります。
【特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権】
民事執行法に基づく競売等の申立て
【所有権留保】
売買契約の解除、対象物の引き上げ
【譲渡担保】
対象物の売却、代金の充当、残額の清算
破産手続きにおいて裁判所は、破産管財人の申立てにより、別除権者が権利行使をする期間を定めることができます(破産法185条1項)。裁判所が定めた期間内に権利を行使しない場合、別除権者はその権利を失います(同条2項)。
4. 別除権の行使を回避する方法
別除権の行使を回避する方法としては、以下の2つがあります。
担保されている債務を完済する
別除権協定を締結する
4-1. 担保されている債務を完済する
別除権となる担保権によって担保された債務をあらかじめ完済すれば、その後に自己破産や個人再生を申し立てても、別除権の行使によって対象物が回収されてしまう事態を防げます。
ただし、所有している財産を売却した代金によって債務を支払う場合、その売却価格が適正であることが求められます。低すぎる価格で財産を売却すると、自己破産や個人再生の手続きにおいて問題になるおそれがあるので注意してください。
4-2. 別除権協定を締結する
民事再生(個人再生を含む)の場合、別除権の対象物の競売等を回避するため、債務者は別除権者との間で「別除権協定」を締結することがあります。
別除権協定とは、別除権の行使方法に関するルールを定めた協定(合意)です。一般的には、対象物の評価額を支払うことを条件に、別除権を行使しないなどの内容を定めます。別除権が行使されなくなるので、対象物の処分を回避して使い続けることができます。
別除権協定を締結しようとする場合は、支払う金額などの条件を別除権者との間で交渉します。合意が得られたら、監督委員の許可を得たうえで別除権協定を締結します。
5. 別除権について弁護士に相談するメリット
自己破産や個人再生を申し立てる際には、別除権の行使によって重要な財産を失うリスクについて慎重に検討すべきです。別除権に関する検討や対応を適切に行うためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、別除権が行使され得るのか、行使によってどのような影響が生じるのかなどを正しく把握することができます。何らかの対策が必要と思われる場合には、その内容について具体的にアドバイスを受けられます。正式に弁護士へ依頼すれば、自己破産や個人再生の手続き全般を任せられるので安心です。
自己破産や個人再生を検討しているものの、別除権の取り扱いが気になっている人は、早い段階で弁護士にご相談ください。
6. 別除権についてよくある質問
Q. 別除権行使とは、わかりやすく言うとどういうこと?
自己破産や民事再生の手続きによらず、担保権を行使して債権を回収することをいいます。別除権者は、ほかの債権者よりも優先的に債権を回収できます。一方、債務者は競売等によって担保の対象物を失ってしまいます。
Q. 別除権と取戻権の違いは何?
「取戻権」とは、他人の財産が破産者の手元にある場合に、その所有者が返還を求めることができる権利です。取戻権は、破産手続きや再生手続きが始まっても変更されません。
一方「別除権」は、破産手続きや再生手続きによらずに担保権を行使し、対象物の売却代金から自分の債権を回収する権利をいいます。
Q. 一般の先取特権は別除権か?
一般の先取特権は、破産手続きや再生手続きにおける別除権に当たりません。
ただし、破産手続きにおいては、一般の先取特権によって担保された債権は「財団債権」または「優先的破産債権」に当たり、通常の破産債権よりも優先的に配当が行われます。
再生手続きにおいては、一般の先取特権によって担保された債権は「一般優先債権」に当たり、再生手続きによらないで随時弁済が行われます。
7. まとめ 別除権を含む破産・再生手続きで悩みがあるなら早めに弁護士に相談を
別除権は、破産手続きや再生手続きによらないで担保権を行使し、自分の債権を優先的に回収できる権利です。担保権が設定された債務が未払いの状態で自己破産や個人再生を申し立てると、債権者によって別除権が行使され、担保の対象物が回収されてしまいます。
早い段階で弁護士に相談すれば、債権者との交渉や別除権協定の締結、その他の選択肢も含めた具体的な対策を検討できます。後悔しないためにも、まずは弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています)


朝日新聞社運営「債務整理のとびら」で
債務整理に強い弁護士・司法書士を探す