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1. 給料(給与)が差し押さえられたら会社にバレる?
借金などを支払わずに放置をしていると、最終的に債権者からの給料の差し押さえによってお金の回収が行われる可能性があります。給料の差し押さえ手続きが開始された場合、借金などを滞納していることを会社にバレないようにすることは絶対にできません。
なぜなら、給料の差し押さえの手続きでは裁判所から会社に対して、債権者の住所や名称、債務者(お金を借りた側)の住所や氏名、借金などの金額などが記載された「債権差押命令書」が送達されるからです。
これは、正社員のみでなく、アルバイト、派遣社員、日雇いなどであっても変わりありません。また給料の支払方法が現金手渡しであっても同様です。
そのため、借金などを滞納している事実を会社に知られたくないのであれば、債権者が給料差し押さえの手続きをとる前に対処をしなければなりません。
2. 借金や税金の滞納がバレたら、会社はクビ(解雇)になる?
会社に借金などを滞納していたことが知られてしまった場合、それを理由にクビ(解雇)になる可能性があると聞いた人もいるかもしれません。実際、そのような懲戒処分がなされることはあるのでしょうか。
2-1. 滞納や給料差し押さえを理由に解雇はできない
結論から言えば、借金などを滞納していることや給料の差し押さえを理由に解雇されることはほとんどありません。
会社が懲戒処分できるのは就業規則上の懲戒事由に該当するときのみであり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当(社会の一般常識から見ても妥当)であると認められない懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。
借金などの滞納や給料の差し押さえ手続きが開始されたから解雇するというのは、社会の一般常識から見ても妥当ではないため、違法・無効と判断される可能性が非常に高いと言えます。
2-2. 給料差し押さえを理由に解雇されてしまったらどうすべき?
それにもかかわらず、給料差し押さえを理由に解雇をされてしまった場合は、まずは会社に解雇理由証明書の交付を請求して、解雇理由を確認することが重要です。次に解雇理由書に記載された理由は解雇事由に該当しないことを主張して、解雇の撤回を求めましょう。
それでも会社が解雇処分を撤回をしない場合は、労働審判や訴訟を提起し、解雇処分の無効、および未払い給料の支払いを請求する必要があります。労働審判や訴訟は専門知識が必要となりますので、弁護士にご相談ください。
3. 給料の差し押さえを受けたら、会社に迷惑がかかる?
給料の差し押さえが行われると、会社も通常業務とは異なる対応が必要となるため、迷惑がかかるといえばかかるかもしれません。ただ、裁判所への対応、差し押さえ金額や支払先の確認程度です。
また、給料の差し押さえは、あくまでも従業員個人の問題です。給料差し押さえ手続きがされたことで会社の信用に影響が及ぶことはありません。
4. 給料差し押さえを回避する方法は?
給料の差し押さえ手続きがされてしまうと、会社に借金などの滞納を把握されることは避けられません。それでは、そもそも手続きを回避する方法はあるのでしょうか。
4-1. 未払いの債務を完済する
差し押さえの手続きは借金などの支払いを滞納しているために行われるものです。そのため、支払期日を過ぎている全ての支払いを速やかに行えば、手続きがされることはありません。支払えるお金があるにもかかわらず、支払うことを忘れていた場合は速やかに支払いましょう。
4-2. 税金や保険料の滞納なら役所に相談する
税金や健康保険料の支払いの場合は、滞納すると役所からまず督促状が送られてきます。督促状に記載されている支払期限までに納付をしないと、滞納処分として給料の差し押さえ手続きが行われる可能性があります。滞納処分は判決などを取得せずに直ちに差し押さえ手続きをすることができます。
税金や健康保険料の支払いが苦しい場合は、役所に支払方法について相談に行きましょう。支払いの猶予や免除が認められることもありますので、支払えないからと言って督促状を無視することなく、早めに役所へ相談に行くようにしてください。
4-3. 債務整理をする
借金などの返済が困難な場合は債務整理をすることが考えられます。
債務整理には、任意整理、個人再生、自己破産の3種類があります。いずれの手続きが適しているのかや、どのように手続きを進めればよいかについては、弁護士にご相談ください。
①任意整理
任意整理とは、各債権者と個別に借金などの返済方法などを合意して、合意内容に従って返済を行う手続きです。具体的には、利息や遅延損害金の支払いを免除してもらったり、返済期間を延ばすことで毎月当たりの返済額を少なくして、借金などの返済を可能なものにしたりします。
合意内容に従った返済をしている限り、債権者から訴訟を起こされることはなく、給料の差し押さえ手続きがされることもありません。
②個人再生
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。
小規模個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額し、原則3年間(最長5年間)で分割返済する計画を立てる手続きです。この手続きにより、借金の一部が免除されることがあります。
個人再生では、借金総額に応じた最低弁済額、または保有している資産の総額のいずれか多い金額を最低限弁済をしないといけません。借金総額に応じた最低弁済額は以下の表のとおりです。
借金総額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 減額なし |
100万円以上~500万円未満 | 100万円 |
500万円以上~1,500万円未満 | 借金総額の5分の1 |
1,500万円以上から3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円以上から5,000万円以下 | 借金総額の10分の1 |
給与所得者等再生は、会社員や公務員など、安定した収入を得られる見込みのある給与所得者を対象とした手続きです。手続きを進めるために債権者の同意が不要であるのが最大のメリットですが、小規模個人再生と比較して最低弁済額が高くなることが多いです。そのため、会社員や公務員などの安定収入を得られる見込みがある場合でも、多くの場合は小規模個人再生を優先することとなります。
③自己破産
自己破産は、裁判所に申し立て、裁判所から免責許可(借金の返済を支払わなくてよいとする許可)をもらうことができれば、支払義務が免除されます。支払義務が免除されたものについては、給料の差し押さえ手続きが行われることはありません。
4-4. 時効を援用する
消費者金融などからの借入であれば、最後の借入から5年間または最後の返済から5年間が経過していれば、時効が完成している可能性があります。時効が完成している場合、その完成を主張すれば(時効の援用を行えば)支払義務が消滅しますので、当該借金の支払いを滞納していることを理由に、給料の差し押さえ手続きが行われることはありません。


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5. 給料の差し押さえを解除する方法は?
前述した対処を行わず、給料が差し押さえられてしまった場合でも、個人再生または自己破産によって解除することができます。
筆者においても、以下の手続きを踏んで給料の差し押さえを解除し、従業員が給料の全額を受領できるようにしたことがあります。
①個人再生による解除
個人再生を申し立てれば、申立と同時に差し押さえ手続きの「中止」を求めることができます(民事再生法第26条第1項第2号)。差し押さえ手続きの「中止」が認められた場合は、強制執行停止の申立を行えば、給料の全額を受け取ることができるようになります。
②自己破産による解除
自己破産手続きを申し立てれば、申立と同時に差し押さえ手続きの「中止」を求めることができます(破産法第24条第1項第1号)。差し押さえ手続きの「中止」が認められた場合は、強制執行停止の申立を行えば、給料の全額を受け取ることができるようになります。
なお、任意整理では、一度始まった給料の差し押さえを解除することはできません。
6. そもそも給料を差し押さえられるのはなぜ?
債権者(お金を貸した側)は、判決などの債務名義を取得すれば、債務者(お金を借りた側)の財産を差し押さえ、未払いの債務を強制的に回収することができます。財産には給料のみではなく、銀行口座や不動産、売掛金なども含まれます。
中でも、給料は毎月継続的に支払われるものであるため、銀行口座の残高のみでは滞納している借金などを一括で回収がすることが難しい場合などは、給料の差し押さえ手続きが行われる可能性が高いです。
7. 給料差し押さえの流れ|会社の対応は?
給料の差し押さえは、どのような流れで行われるのでしょうか。債務者(お金を借りた側)である従業員と会社、それぞれの立場から見た流れを解説します。
7-1. 債務者(従業員)から見た給料差し押さえの流れ
借金などの支払いを滞納すると、まず督促状が送られてきたり、電話で支払いを督促されたりします。この段階ですぐに滞納分を支払うことができれば大きな問題にはなりません。
督促状などで支払いを督促されたにもかかわらず、支払いをしないままでいると、債権者から、支払督促や訴訟などの裁判手続きがとられます。支払いを滞納し始めてから裁判手続きがとられるまでの期間は債権者によってさまざまです。支払滞納から数カ月で裁判手続きをする債権者もいれば、支払滞納から1年以上が経過しても裁判手続きをしない債権者もいます。
支払督促や訴訟などの判決などにより、支払義務が認められると、債権者は債務者の財産を差し押さえるための強制執行手続きができるようになります。
判決などから出てから、強制執行手続きが行われるまでの期間も債権者によりけりです。1カ月程度で行う債権者もいれば、強制執行手続きを結局行わないままの債権者もいます。
給料差し押さえの手続きがとられると、裁判所からの通知が債務者に届く前に、会社に債務者の給料を差し押さえる旨の通知(給料差押命令書)が届きます。
7-2. 会社から見た給料差し押さえの流れ
会社にとっては、裁判所からの給料差押命令書が送達されてから手続きが始まります。
給料差押命令書が送達されると、会社がいままでどおり従業員に給料全額を支払うことは禁止されます(民事執行法第145条第1項)。また、差押命令書には陳述書が同封されていることが一般的です。会社は陳述書を受け取ってから2週間以内に①給料の額、②債権者への弁済の意思、③他の差し押さえの有無、などの必要事項を記載して、裁判所に返送しないといけません(民事執行法第147条第1項)。陳述書の提出を怠ったり、陳述書に虚偽の内容を記載すると、債権者がそれによって損害を被った場合は、債権者が会社に賠償を求める可能性があります(民事執行法第147条第2項)。
そして、会社は債権者に支払うべき金額を計算し、残りを従業員に支払わなくてはなりません。債権者は、会社に給料差押命令書が送達されてから4週間(債権が養育費や婚姻費用などは1週間)を経過した後は、債権者は直接、会社に支払いを請求できるようになりますので、この場合は、債権者が指定する銀行口座などに支払っていくことになります。
8. 給料差し押さえはいつまで続く?
給料などの継続的に支払われるものに対する差し押さえの効力は、対象債務および執行費用の全てが完済されるまで続きます(民事執行法第151条)。
したがって、給料の差し押さえの効力は、借金と差し押さえにかかった費用が完済されるまで、もしくは従業員が退職などをしたことにより、会社が従業員に給料を支払う必要がなくなるまで続きます。
9. 給料の差し押さえを会社が拒否したらどうなる?
給料差押命令書が送達され、従業員に給料全額を支払うことが禁止されたにもかかわらず、従業員に給料を支払った場合は、どうなるのでしょうか。
この場合、会社が債権者(従業員にお金を貸した側)に対して給料分のお金を支払う義務は結局なくならないため、会社は債権者と従業員、二重の支払いをすることになります。「従業員に対して支払済みであり、従業員がそこから債権者に支払いますから、会社は債権者に支払いませんよ」という主張は認められません。
会社が債権者に支払わないでいると、今度は会社が債権者から訴訟を提起され、会社の財産などを差し押さえられる可能性があります。
10. 給料のうち、差し押さえができる金額は?
給料の差押命令の送達を受けた会社は、差し押さえられた部分については債権者に支払い、残りの部分については従業員に支払わなくてはなりません。
給料全額を差し押さえてしまうと従業員は生活に困窮することから、給料の差し押さえについては、以下の金額が上限とされています(民事執行法第152条)。
① 養育費や婚姻費用などの回収を目的とする場合
以下のいずれか多い金額
(a)手取り額の2分の1
(b)手取り額が44万円を超える場合、33万円を超える部分
② ①以外の場合
以下のいずれか多い金額
(a)手取り額の4分の1
(b)手取り額が44万円を超える場合、33万円を超える部分
※手取り額とは、基本給+諸手当-所得税-住民税-社会保険料(ただし、通勤手当は手取り額に含めない)
11. 給料差し押さえについて弁護士や司法書士に相談するメリット
給料の差し押さえがされる前であれば、債務整理の手続きによって給料の差し押さえを回避できます。また、給料の差し押さえがされた後でも個人再生や自己破産を申し立てることで、解除することが可能です。
一方で、債務整理は、法律の複雑な知識が必要になるのに加え、時間や手間もかかります。
そのため、借金などの支払いが苦しくなったら、早めに弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。なお、1社当たりの借金額が140万円を超える場合や、個人再生および自己破産を選択する場合は、弁護士でなければ対応できないため注意が必要です。


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12. 給料差し押さえに関するQ&A
Q. 滞納してから給料差し押さえまで何カ月かかる?
支払いを滞納し始めてから給料差し押さえまでの期間は、債権者によってさまざまです。
おおよその目安としては、支払督促を経る場合は滞納から最短で2カ月程度、訴訟を経る場合は最短で3カ月程度、支払うべきものが税金などの場合は最短で1カ月程度です。
Q. 会社に「返済が完了した」と虚偽の報告をしたらどうなる?
給料の差し押さえを早めに解除してもらおうとして、会社に「返済が完了した」と虚偽の報告をするのは絶対に止めましょう。
債権者は、会社から支払いを受けたときは、裁判所に対して支払いを受けた額を報告しなくてはなりません(民事執行法第155条第4項)。そして、債権者は、債権全額の支払いを受けたときは、裁判所に取立完了届を提出し、裁判所は給料差押命令を解除する旨を会社に通知します。そのため、返済が完了していないにもかかわらず、会社に「返済が完了した」と報告をしてもすぐに虚偽であるとバレることになります。虚偽の報告は懲戒処分の対象となる可能性があるため、絶対に嘘をつかないようにしましょう。
Q. 債務整理をしたら、会社にバレる?
債務整理のうち任意整理の場合は、通常、借金をしていることを会社に知られることはありません。
個人再生や自己破産の場合も、通常、借金をしていることを会社に知られることはありませんが、国が刊行する官報に住所や氏名などが掲載されます。官報を閲覧する人は多くはありませんが、官報の掲載によって知られる可能性は否定できません。
Q. 給料は全額差し押さえられることもある?
会社と雇用契約があり、それに基づいて給料が支払われている場合は、給料の一部しか差し押さえてはならないと定められているため(民事執行法第152条)、全額が差し押さえられることはありません。
Q. 給料差し押さえ中に退職したらどうなる?
給料の差し押さえ中に会社を退職した場合、月々の給料が発生しなくなるため、差し押さえそのものもなくなります。もっとも、退職金も差し押さえの対象となりますので、退職金が支払われる場合は退職金の一部は差し押さえられます。また、退職したとしても、残額の支払義務については引き続き負うことになります。
13. まとめ 給料差し押さえは早めの相談で回避が可能
借金の返済が滞っていると給料が差し押さえられる可能性があります。差し押さえられた場合、それを理由に解雇されることはないものの、会社に借金の存在が知られてしまいます。
これらの事態を回避するには、早めの対処が必要です。特に債務整理は個人再生や自己破産手続きを申し立てることで、給料の差し押さえを解除をすることも可能ですが、一定の時間が掛かることは否定できません。そのため、給料の差し押さえがされる前からきちんと対応をしておくことが大切です。借金などの支払いが苦しくなったら早めに弁護士に相談することをおすすめします。
(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています)


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