個人からの借金に時効はある? 成立要件を弁護士が解説

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何年も返済していない個人からの借金は、時効を迎えている可能性があります(c)Getty Images
借りたお金を返す義務は、長い時間が経つと「時効」によって消滅することがあります。特に個人から借りたお金は、貸した側が忘れていて時効が完成することも珍しくありません。 ただし、お金を借りた側が対応を間違えると時効の完成が認められず、借金を返す義務が残ってしまうことがあるので注意が必要です。たとえば、お金を貸してくれた人に対して、「払います」「返します」などと言ってしまうと、時効が更新されてしまいます。 弁護士に相談して、どのように対応すべきかアドバイスを受けましょう。個人からの借金が時効になる条件や注意点などを弁護士が解説します。

目 次

1. 借金の消滅時効とは

2. 個人からの借金が時効消滅するための条件

2-1. 時効期間が経過したこと

2-2. 時効の完成猶予または更新が生じていないこと

2-3. 時効を援用したこと

2-4. 個人からの借金が、実際に時効消滅する可能性はある?

3. 個人からの借金の時効が完成しないケース

3-1. 内容証明郵便で返済を請求された場合

3-2. 裁判所から支払督促を受けた場合

3-3. 訴訟を提起された場合

3-4. 仮差押えや強制執行を受けた場合

3-5. 返済義務があることを承認した場合|実際に返済を行った場合などを含む

4. 個人からの借金を時効消滅させるための手続き

4-1. 時効期間が経過しているかどうかを確認する

4-2. 時効援用の方法を検討する

4-3. 時効援用通知書を送付する

5. 個人からの借金の時効が完成しているかどうかを調べる方法

5-1. 契約書を確認する

5-2. 最後の返済日を確認する

5-3. お金を貸してくれた人との借金返済についてのやり取りを確認する

5-4. お金を貸してくれた人に直接連絡してもよいか?

6. 個人からの借金について弁護士に相談するメリット

7. 個人からの借金と時効に関するよくある質問

8. まとめ 借金の時効は弁護士に相談しながら慎重に確認する
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1. 借金の消滅時効とは

借金を取り立てる権利(=債権)には「消滅時効」が設けられています。消滅時効とは、一定の期間が経過すると権利を行使できなくなる制度です。借金については、時効期間が経過すると消滅時効が完成し、返済しなくてもよくなります。

消滅時効制度の目的は、債務者(お金を借りた人)を不安定な立場から解放することです。長い間借金の督促を受けていない場合、弁護士に相談して消滅時効が完成していないかどうかを検討しましょう。

2. 個人からの借金が時効消滅するための条件

個人からの借金が時効消滅するためには、以下の要件をすべて満たすことが必要です。

  • 時効期間が経過したこと

  • 時効の完成猶予または更新が生じていないこと

  • 時効を援用したこと

個人からの借金だけではなく、金融機関や貸金業者からお金を借りた場合も同様に、消滅時効の適用があります。

2-1. 時効期間が経過したこと


借金の消滅時効は、以下のいずれかの期間が経過することによって完成します(民法166条1項)。

・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
・権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

基本的には、お金を借りた日または最後の返済日から5年が経過すると時効が完成します。ただし、裁判の判決や訴訟での和解、調停などによって返済が認められた場合には、その時点から10年となります(民法169条)。

2-2. 時効の完成猶予または更新が生じていないこと


時効に関わる行為の一覧図。該当すると、時効が更新されたり、完成猶予されたりする
時効に関わる行為の一覧図。該当すると、時効が更新されたり、完成猶予されたりする

時効の完成が猶予されている場合、または時効が更新された場合は、本来の時効期間が経過しても、借金の返済義務は消滅しません。

時効の完成猶予とは、時効の完成が一時的に先延ばしにされることをいいます。猶予期間が経過した時点で時効が完成しますが、それまでは時効が完成しません。例えば、お金を貸した側が訴訟を提起した場合や、内容証明郵便で返済を催告した場合などは、時効の完成が猶予されます。

時効の更新とは、時効期間をリセットしてゼロからカウントし直すことをいいます。時効が更新されたときは、改めて5年または10年が経過しなければ時効が完成しません。訴訟の判決が確定したとき、調停が成立したときなどは時効が更新されます。

2-3. 時効を援用したこと


時効によって借金の返済義務を消滅させるには、時効の「援用」を行う必要があります。時効の援用とは、時効が完成したために、借金の返済義務が消滅したと主張する手続きです。

時効を援用するには、お金を貸してくれた人に対して時効援用通知書を送付する方法や、訴訟を提起された際に反論の書面で記載する方法などがあります。どのような方法で時効を援用するかについては、状況に応じた検討が必要です。

2-4. 個人からの借金が、実際に時効消滅する可能性はある?


一般論として、金融機関や貸金業者からの借金に比べると、親族や知人からの借金は時効によって消滅するケースが多いと思われます。金融機関や貸金業者は時効期間をきちんと管理していますが、親族や知人は貸したこと自体を忘れているケースもあるためです。

親族や知人から遠い昔に借りたお金を返すべきかどうか迷っている人は、時効について弁護士に相談してみるとよいでしょう。

3. 個人からの借金の時効が完成しないケース

前述のとおり、時効の完成が猶予されている場合や、時効が更新された場合には、借金の時効が完成しません。時効が完成しないケースとして、よくあるパターンを紹介します。

3-1. 内容証明郵便で返済を請求された場合


お金を貸してくれた人から返済の催告が行われると、借金の時効の完成が6カ月間猶予されます(民法150条1項)。催告は内容証明郵便で行われるのが一般的です。

内容証明郵便が届いたら、少なくともその後6カ月間は借金の時効が完成しません。ただし、2回目以降の催告については、時効の完成が猶予されません(同条2項)。

3-2. 裁判所から支払督促を受けた場合


債権者は貸したお金を回収するため、裁判所に支払督促を申し立てることがあります。支払督促とは、お金を返さない人に対して、裁判所が支払いを督促する手続きです。支払督促が届いた場合、一定期間内に異議を申し立てないと、強制執行によって財産が差し押さえられるおそれがあります。

また、支払督促が申し立てられると、時効の完成が猶予されます(民法147条1項2号)。さらに、異議申立てがなく支払督促が確定すると、時効が更新(リセット)されるため注意が必要です(同条2項)。

3-3. 訴訟を提起された場合


債権者は貸したお金を強制的に回収するために、裁判所に貸金返還請求訴訟を提起してくるかもしれません。また、支払督促に対して異議を申し立てた場合は、自動的に訴訟へ移行します。訴訟は公開の法廷で行われ、債務者が敗訴すると強制執行によって財産が差し押さえられるおそれがあります

訴訟が行われている間は、借金の時効の完成が猶予されます。判決などによって返済義務が確定すると、時効が更新(リセット)され、新たに時効期間が始まることになります。

3-4. 仮差押えや強制執行を受けた場合


債権者は訴訟を起こす前に、お金を借りた債務者が財産を処分することなどを防ぐために裁判所に仮差押えを申し立てることがあります。仮差押えが行われた場合は、その後6カ月間借金の時効の完成が猶予されます(民法149条)。

実際に訴訟が提起された場合には、さらに時効の完成が猶予されることになります。また、支払督促や訴訟の判決が確定した際は、債務者の財産を差し押さえるために強制執行の申し立てがなされる可能性が高いです。

強制執行の申し立てがされた場合も、消滅時効の完成が猶予されます(民法148条1項1号)。強制執行が完了すると、時効が更新されてしまいます(同条2項)。

3-5. 返済義務があることを承認した場合|実際に返済を行った場合などを含む


債務者が借金の返済義務を承認した場合、その時点で時効が更新されます(民法152条1項)。これは「権利の承認」と呼ばれるものです。

「払います」「返します」「認めます」などと明確に言った場合は、権利の承認に当たります。そのほか、実際に借金を返済した場合や、借金の存在を前提とする言動をした場合にも、権利の承認とみなされるおそれがあるのでご注意ください。

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4. 個人からの借金を時効消滅させるための手続き

個人からの借金を時効によって消滅させるためには、以下の流れで手続きを行いましょう。

4-1. 時効期間が経過しているかどうかを確認する


まずは、借金の時効が完成しているかどうかを確認する必要があります。借金の時効は以下のいずれかの期間が経過した場合に完成します。

・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
・権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

また、時効の完成猶予や更新が生じていないかも確認が必要です。確認方法が分からない場合は、弁護士に一度相談してください。

4-2. 時効援用の方法を検討する


借金の時効が完成している場合は、どのような方法で時効を援用するかを検討します。代表的なのは、内容証明郵便によってお金を貸してくれた人に時効援用通知書を送る方法です。口頭や普通郵便などで伝えるよりは、記録が残る内容証明郵便を利用した方がよいでしょう。

その一方で、その人から長年請求を受けていない場合、できるだけ事を荒立てないように、返済を求められた際に時効を援用することも考えられます。仮に訴訟を提起されても、訴訟の中で時効を援用することは可能です。時効援用の方法やタイミングなどは、弁護士と相談しながら慎重に判断することが重要です。

4-3. 時効援用通知書を送付する


時効援用通知書を送る場合は、以下の内容などを記載した文書を作成しましょう。

  • 債権者の名称(氏名)

  • 債務者の氏名、住所

  • 通知書の作成日

  • 借金の内容(借りた日、金額、契約書に関する情報など)

  • 時効が完成した旨、および時効を援用する旨 など

内容証明郵便は、大規模な郵便局の窓口から送付できるほか、e内容証明(電子内容証明)を利用して送付することも可能です。

5. 個人からの借金の時効が完成しているかどうかを調べる方法

個人からの借金が時効を迎えているかを調べるには、次の方法が挙げられます。ただし、時効を確認する際は、「権利の承認」に当たらないように注意すべきです。

5-1. 契約書を確認する


借金に関する契約書がある場合は、その内容を確認しましょう。いつお金を借りたのか、返済期日はいつかなど、時効が完成する時期の判断に役立ちます。

5-2. 最後の返済日を確認する


借金を返済したことがある場合は、最後の返済日から5年間が経過すると時効が完成します。最後の返済日がいつであるかを、銀行口座の引き落とし履歴や領収書などから確認しましょう。

5-3. お金を貸してくれた人との借金返済についてのやり取りを確認する


お金を貸してもらった人とメッセージでやり取りしている場合は、その内容を遡って確認しましょう。最後の返済日はいつか、時効の完成猶予や更新に当たるやり取りがないかどうかなども調べる必要があります。

5-4. お金を貸してくれた人に直接連絡してもよいか?


お金を貸してもらった人に直接連絡すると、借金の返済義務を承認したと判断されるおそれがあります。そのため、時効援用通知書を送付する前に、直接連絡することは避けた方が無難です。借金の時効が完成しているかどうかは、弁護士のサポートを受けながら、手元にある資料を確認して判断しましょう。

6. 個人からの借金について弁護士に相談するメリット

親族や友人からの借金について、時効が完成していると思われる場合でも、自分だけで対応するのは危険です。不用意に相手に連絡すると、時効を援用できなくなるおそれがあります。

弁護士に相談すれば、借金の時効が完成しているかどうかや、時効援用の方法などについて適切なアドバイスを受けられます。仮に時効が援用できないとしても、債務整理などの別の方法により、借金問題の解決をサポートしてもらうことが可能です。

個人からの借金について時効を主張したい人や、借金の返済が苦しくて悩んでいる人は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

7. 個人からの借金と時効に関するよくある質問

Q. 個人からの借金の時効を援用するリスクは?


相手との関係性が悪化したり、訴訟を起こされたりするリスクがあります。時効を主張する権利はありますが、リスクも十分に考慮する必要があります。

Q. 借用書がない場合、借金の時効援用は難しい?


借用書がなくても、他の資料からお金を借りた時期や最後の返済日などがわかれば、時効を援用できる可能性があります。自分で調べてもわからない場合は、弁護士に相談してください。

Q. 15年前に個人から借金をした場合、時効が完成している?


15年前の借金については、時効期間は10年となります(2020年4月の民法改正より前であるため)。15年経っていれば時効が完成しているかもしれません。しかし、その間に時効が停止(完成猶予)または中断(更新)されていると、時効が完成していない可能性もあります。

8. まとめ 借金の時効は弁護士に相談しながら慎重に確認する

個人からの借金は、長い間返済していなければ時効によって消滅している可能性があります。弁護士に相談して、時効が完成しているかどうかを確認しましょう。

時効の援用で相手に連絡する場合は、連絡の内容について慎重に検討すべきです。時効の援用に失敗すると返済義務が復活してしまうので、弁護士と協力しながら対応することが重要です。

(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

阿部由羅(弁護士)

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ゆら総合法律事務所 代表弁護士
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。債務整理案件のほか、離婚・相続案件や、ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。埼玉弁護士会所属。登録番号54491。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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