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1. 費用がない場合でも、法人破産はできる?
まったくお金がない状態では、法人破産の手続きを進めるのは現実的に難しいと言わざるを得ません。
法人破産には、裁判所に納付する費用や弁護士費用など、最低でも100万円近いお金が必要です。銀行や消費者金融などの債権者(お金を貸している側)の数が多い場合、あるいは処理すべき資産や取引関係が複雑な場合はさらに費用がかさみます。
資金が完全に底をついてしまうと、費用を工面できずに破産の申立て自体ができなくなるおそれもあります。そのため、法人の資金繰りが厳しくなってきた段階で、早めに弁護士に相談することが重要です。
場合によっては、破産以外の選択肢がとれる可能性もあります。まだ資金にある程度の余裕があるうちに、専門家に相談して最適な対応策を検討しましょう。
2. 法人破産に必要な費用
法人破産を申し立てる際には、引継予納金をはじめとした裁判所費用や弁護士費用が発生します。代表者個人も同時に破産を申し立てる場合、費用は一般的に合計100万円以上になります。
2-1. 引継予納金|20万円~
法人の破産手続きは、原則として管財事件として扱われます。
管財事件とは、裁判所が選任する破産管財人が財産を売却してお金に換える工程に加え、銀行や消費者金融などの債権者への分配(配当)などを行う手続きです。破産管財人の業務には報酬や必要経費が発生するため、その費用をまかなう目的で引継予納金が必要になります。
この引継予納金は、申立人が事前に裁判所へ納付する必要があり、法人の規模や負債額、取引内容の複雑さなどをふまえて裁判所が金額を決定します。
たとえば、東京地方裁判所の運用例は以下のとおりです。
通常管財事件:70万円~
少額管財事件:20万円~
少額管財とは、破産手続きの簡略化を目的に、債権者数が少なく資産関係が比較的単純なケースに限って認められる制度です。すべての法人破産に適用されるわけではありません。引継予納金は管財事件の種類を問わず破産を申し立てる際に必要となるため、資金的に厳しい状況でも、破産を検討する段階であらかじめ確保しておくことが重要です。
2-2. そのほか、裁判所に納付する費用|6万円程度
このほか、裁判所には次のような費用を納付する必要があります。これらの費用も事前に準備しておく必要があります。なお、郵便切手代は裁判所や債権者数などによって異なります。
法人破産 | 代表者の自己破産 | |
---|---|---|
申立手数料 | 1000円 | 1500円 |
郵便切手代 | 数千円~1万円程度 | 数千円程度 |
官報公告費用 | 1万4786円 | 1万円~2万円程度 |
2-3. 弁護士費用|50万~200万円
弁護士に破産手続きの相談をする場合、30分あたり5000円前後の相談料がかかります。相談を無料としている事務所もあります。
弁護士に正式に破産手続きを依頼する場合は、着手金や報酬金、あるいは手数料としてまとまった金額の支払いが必要です。一般的な中小規模の企業で、法人と同時に代表者個人も破産を申し立てる場合には、総額で100万円以上になるケースが多いです。
規模の大きい法人の場合のほか、債権者の数や負債総額が大きい場合などには、200万円以上となる場合もあります。
そのほか、交通費や通信費、書類の取得にかかる手数料などの実費も、原則として依頼者が負担します。これらの実費は、事案によって数千円から数万円程度かかる場合があります。
3. 法人破産の費用を支払わないとどうなる?
法人破産の費用を用意できない場合はどうなるのでしょうか。2つのケースについて解説します。
3-1. 裁判所に納付する費用を支払わない場合
法人破産を申し立てると、裁判所から引継予納金の納付を命じる決定が出されます。これは破産管財人の報酬などをまかなうために必要不可欠な費用です。
しかし、期限までにこの費用を納めなければ、破産手続きは開始されません。正式には引継予納金の納付を命じる決定が出されたにもかかわらず納付がない場合、裁判所は破産申立てを棄却(却下)します。つまり、費用を支払えなければ、破産を進めたくても手続きそのものが打ち切られてしまいます。
3-2. 弁護士費用を支払わない場合
法人破産は手続きが煩雑で、弁護士の専門的なサポートがほぼ不可欠です。しかし、弁護士費用を用意できない場合は、そもそも依頼を受けてもらえない可能性があります。
事務所によっては、分割払いや後払いに対応してくれるケースもありますが、約束した支払いが滞る状態が続けば、弁護士がやむを得ず辞任する場合もあります。途中で弁護士のサポートを失えば、申立ての準備が進まず、破産手続きが頓挫するおそれもあります。
4. 法人破産の費用がないときの対処法
破産費用が足りない場合に現実的な対処法は以下の4つです。
会社の財産を現金化する
代表者個人が捻出する
弁護士費用を分割払いや後払いにしてもらう|受任通知の活用
弁護士費用が安い法律事務所を選ぶ
4-1. 会社の財産を現金化する
会社の財産を現金化する方法です。主に次のような方法があります。
売掛金の回収
保険の解約
車、不動産、在庫品の売却
事務所の賃貸借契約の解約(敷金の回収)
ただし、適正な金額で現金化しなかった場合や、財産を手放して得たお金を破産手続き以外に使用すると、あとの破産手続きにおいて問題となる可能性があります。この方法を選ぶときには、事前に弁護士に相談してください。
4-2. 代表者個人が捻出する
法人に換金できる資産がほとんど残っていない場合は、代表者が自ら費用を用意するほかありません。
まず見直すべきは、日常の支出の削減です。たとえば、交際費の削減、水道光熱費の節約、携帯電話プランの見直し、不要なサブスクリプションサービスの解約といった固定費を減らすことで、少しずつ資金を確保できる可能性があります。
また、信頼できる親族に援助を依頼する選択肢もあります。親族に費用を援助してもらう場合は、借り入れではなく贈与であることを裁判所に証明できるようにしましょう。なお、110万円を超える場合は、贈与税がかかります。
個人財産を費用に充てる際も、法人との取引関係や財産管理の観点から問題にならないよう、あらかじめ弁護士に確認することをお勧めします。
4-3. 弁護士費用を分割払いや後払いにしてもらう|受任通知の活用
弁護士事務所によっては、費用の分割払いや後払いに対応している事務所もあります。まとまったお金がすぐに準備できない場合は、弁護士に費用の分割払いを相談してみましょう。
弁護士への依頼後、債権者に受任通知を発送してもらえれば、その後は督促が止まり、借金など債務の返済をストップできるため、弁護士費用を捻出する余裕が生まれます。法人破産を検討するような財務状況で資金を用意するのは困難ですが、費用の分割に対応している弁護士に依頼することで、落ち着いて準備を進められるはずです。
4-4. 弁護士費用が安い法律事務所を選ぶ
弁護士費用の額は事務所によって異なります。比較検討すれば、安く依頼できる弁護士が見つかるかもしれません。
ただし、費用の安さだけで弁護士を選ぶのはお勧めできません。法人破産の手続きは複雑で、財産や取引先、債権者との関係が絡む重要な局面でもあるため、経験や実績、対応の丁寧さ、相性なども考慮する必要があります。
複数の事務所に問い合わせたり、無料相談を利用したりしながら、自分にとって納得できる弁護士を選びましょう。


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5. 法人破産の費用がない場合は、法テラスを利用できる?
「日本司法支援センター 法テラス」は、経済的に余裕がない人でも法律相談や弁護士依頼ができるよう、費用の立替制度を提供しています。ただし、この制度が使えるのは個人に限られ、法人破産の申立てには利用できません。
一方で、法人と併せて代表者個人も破産を申し立てる場合は、代表者個人の破産手続きに限り、法テラスの支援が受けられる可能性があります。そのため、法人と代表者の破産を同時に検討している場合には、まず法テラスに相談し、自分が支援対象となるか確認するとよいでしょう。
法人破産単独では利用できない点には注意が必要ですが、個人の側面では救済の道が開かれている可能性もあります。費用面で破産に踏み切れない場合は、こうした制度をうまく活用することが重要です。
6. 費用をかけてでも、法人破産を弁護士に依頼するメリット
法人破産の弁護士費用は決して安くはありませんが、それでも弁護士に依頼することには多くのメリットがあります。特に、経営者自身で対応しきれない問題が山積するなかでは、弁護士の関与がきわめて重要です。
まず、弁護士が受任通知を出すことで、債権者からの取り立てが止まります。支払いの督促や連絡に追われるストレスから一時的にでも解放されることで、冷静に今後の対応を考える時間を確保できます。
また、破産手続きに必要な裁判所への費用についても、少額管財という手続きに振り分けられれば、通常よりも費用を抑えられる可能性があります。この制度は、弁護士が申立代理人となっている場合しか利用できません。ただし、少額管財の運用をとっていない裁判所もある点には注意が必要です。
破産には多くの書類作成や利害関係者への対応など、煩雑な手続きが伴います。それらを弁護士に一任できる点も大きな利点です。従業員の解雇、財産の処分や取引の停止など、特に慎重に進めるべき行為も、弁護士から適切なアドバイスを受けられるため、安心です。
破産以外にも、民事再生や私的整理など、別の選択肢がある場合はその提案を受けられるため、事業継続の可能性を含め、最適な道を検討できます。
7. 法人破産の流れ|費用を支払うタイミングは?
法人破産の手続きの主な流れは、以下のとおりです。
7-1. 弁護士に自己破産を依頼
会社の代表者が弁護士に法人破産を正式に依頼します。依頼時には弁護士と委任契約を締結し、着手金を支払います。
7-2. 受任通知の送付で督促がストップする
弁護士から、取引先を含む各債権者に対して受任通知を発送します。受任通知が債権者に届くと、その後は督促や借金の返済がストップし、債権者からの連絡は法人ではなく弁護士に入ることになります。
ただし、受任通知による取り立て制限を受けるのは貸金業者や債権回収業者であり、取引先は法律上の制限を受けません。そのため、受任通知を送付することで、法人破産することを知った取引先が、法人の手元にある商品を勝手に持ち帰って回収を図ったり、代表者にしつこく返済を迫ったりする可能性があります。
このように、かえって混乱を招きそうな場合などには、受任通知を送付せずに申立てに移ることもあります。
7-3. 従業員の解雇
会社の事業停止に伴い、従業員との雇用契約を解消します。従業員にとっても、この先どうなるのかという不安も多くあるため、十分な説明が必要になります。
7-4. 賃借物件の明渡し
事務所や店舗などが賃貸物件の場合には明け渡します。什器やオフィス機器などのリース契約がある場合には、その契約の解除や返却などの手続きを進めます。
破産申立て前に賃貸物件の明渡しができていない場合は少額管財を適用できず、引継予納金が高額になる可能性があります。申立前に余裕をもって明渡しができるよう、弁護士に相談しながら早いタイミングで解約手続きを行いましょう。
7-5. 申立書類の作成
裁判所に提出する申立書を作成します。申立てに必要な書類は弁護士が作成するものの、作成に必要な情報の提供は法人の代表者や経理担当者に依頼することが一般的です。
7-6. 破産申立~破産手続開始の決定
裁判所に破産の申立てを行います。審査を経て、引継予納金を納めたら、正式に破産手続きが始まります。手続きが開始すると、裁判所が破産管財人を選任します。
7-7. 会社財産の換価処分
破産管財人が、不動産や備品、在庫や有価証券といった法人の資産を売却して、現金化します。
7-8. 債権者集会
債権者を集め、破産管財人から手続きの進捗状況や財産状況、返済の分配の説明が行われます。
7-9. 債権者への配当
換価した資産から、法的な優先順位にもとづいて債権者へ分配します。資産が少ない場合は配当がされないこともあります。
7-10. 破産手続の終了
分配や整理が終わると、法人破産の手続きは完了します。この時点で法人は法的に消滅し、登記簿から抹消されます。
8. 法人破産の費用がない場合に関してよくある質問
Q. 法人破産は自分でできる?
法人破産の申立て自体は、代表者自身でも可能です。
ただし、必要書類が多く、財産関係の整理や裁判所とのやりとりも複雑で、専門的な判断が求められる場面が少なくないため、弁護士のサポートが不可欠と言えるでしょう。
Q. 費用がなくて法人破産ができないとどうなる?
費用を用意できず法人破産ができないままでいると、債権者から会社財産の差し押えを受ける可能性があります。また、社長が連帯保証人となっている場合は、個人の財産に対して請求が及ぶこともあります。放置すれば状況は悪化するため、費用面の不安があっても、早めに弁護士へ相談することが大切です。
9. まとめ 法人破産の費用面で不安があれば弁護士のサポートを得るのが得策
法人破産には一定の費用が不可欠で、裁判所に納付する費用や弁護士費用など最低でも100万円近いお金が必要です。規模の大きい法人の場合のほか、債権者の数や負債総額が大きい場合などには、200万円以上となる場合もあります。
裁判所に納付する費用を支払わない場合は、破産を進めたくても手続きそのものが打ち切られてしまいます。また、弁護士費用を支払わない場合には、弁護士がやむを得ず辞任する事態になりかねません。
法人破産に必要な費用がない場合でも、会社資産の現金化や代表者の個人資金の活用、弁護士費用の分割払いなど、費用の確保方法は複数あります。
費用面の不安で手続きを躊躇せず、早めに弁護士へ相談して適切な対策を立てましょう。専門家の助けを借りることで、解決の道がきっと見つかるはずです。
(記事は2025年9月1日時点の情報にもとづいています)


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